11.女神の聖域
「浦野、お前無事だったのか!?」
確かに浦野は真っ二つにされた。
なのに彼は生きている。
当の本人ですら自分の状況を
理解できていないようで、
自分の体を確かめている。
そして、今起きたこの現象に
心当たりがありそうな柑凪が
自信なさげな表情で手を挙げた。
「えっと…今更って思うかもだけど、
ここで言うべきだと思うから言うね。
私のユニークスキルは『
私の近くにいる限りみんなは死なないし、
状態異常にもならないんだって。
それから、でばふ…?も無効にできるみたい。」
状態異常無効だけでなく、
味方への不死の贈与と
こちらのステータスを下げるデバフを
無効にするとは、なんて桁外れなスキルだ。
これぞまさにチートスキルに相応しい力。
そんなに大切なことを
どうして今まで黙っていたのか。
「ごめんね…?言うタイミングが分からなくて…。」
確かに、ここまでの中で
自分のユニークスキルのことを
話したり教えたりする者はいなかった。
パーティーでの役割を決めるために
簡単なステータスと魔法は教え合ったが、
スキルだけは誰も言わなかったのだ。
それがなぜかと問われれば、
凛太郎のスキルは漠然的で
説明のしようがなかったからである。
というより、他者からの認識を阻害するという
凛太郎のスキルのおかげで、
凛太郎に話を振る人もいなかったのだ。
決して忘れられている訳ではないが、
認識させにくいというのは
人間関係において重大な欠点である。
だが今はそんなことはどうでもいい。
柑凪の持つユニークスキルがあれば、
この絶望的な状況をひっくり返すことができる。
みんなの心に希望が湧いてきた。
「柑凪、そのスキルの届く範囲が
どれくらいなのか分かるか?」
「うーん、境界線が見える訳じゃないんだけど、
私を中心に100メートルくらいだと思う。」
「想像以上に広いな。」
効果だけでもチートだというのに、
その範囲までチートなのか。
部屋の直径がおよそ150メートルなので、
柑凪が部屋の中心付近にいる限りは
誰も死なないということになる。
だが、誰も死なないからといって
こちらの攻撃が届く訳ではない。
物理攻撃は効かないし
魔法による攻撃は弾かれる。
しかしそれでも、何か対策を考えるための
時間くらいは稼げるだろう。
「…みんな!ここが踏ん張り所だ!
必ず生きてここから出よう!」
希望が湧いてきたなら、
杉森も冷静な心を取り戻す。
大剣は投げてしまったが、
パーティーを鼓舞することはできる。
「あぁ!みんなで生きて帰るぜ!
杏沢!防御バフをかけてくれ!」
「は、はい!
浦野の硬さに杏沢のバフが加われば、
先程のように簡単にはやられないだろう。
仮にやられたとしても
柑凪のスキルがあれば死ぬことはないし、
寺門が魔法で攻撃して死神モンスターの気を
あちらこちらに散らせれば
それだけ浦野の負担も減る。
それに、物理攻撃が効かなくとも
あのモンスターが持つ鎌を
抑えることはできそうだ。
凛太郎も持ち前の速さで
モンスターを視覚を掻き乱す。
そうして色々な角度から揺さぶって、
いつか来るであろうチャンスを待つ。
「第一班、いくぞぉ!」
「「「おう!」」」
前衛は杉森と凛太郎の二人。
まず凛太郎は杉森が投げて
壁に刺さったままの大剣を抜きに行き、
杉森とモンスターの線上に移動する。
モンスターの背後から大剣を投げるが、
やはり物理攻撃は効かないようで
すり抜けてしまった。
だが、無事に杉森へ大剣が届く。
「寺門!撃て!」
「火弾!」
寺門の放つ魔法を消そうと
モンスターが小鎌を振り下ろす。
しかし、杉森はその鎌を止めるために
タイミングを見計らって大剣を合わせる。
武器同士が衝突する音が響き渡り、
寺門の魔法が鎌に消されることなく
モンスターに顔に命中した。
「やった!当たった!」
物理攻撃が効かないだけに
魔法攻撃の耐性がないのか、
死神モンスターは大きくよろめいた。
このまま同じことを続ければ、
もしかしたら勝てるかもしれない。
そう淡い期待を抱いたのも束の間。
立ち尽くしている杉森の手には
大剣の柄しか残されていなかった。
「もう限界がきたのか……!」
ここまでの戦いの中では、
できるだけダメージを蓄積しないように
大剣による直接攻撃は控えていた。
普通のモンスターであれば、
大剣を振った時の風圧だけで
倒すことができていたから。
だが、この死神モンスター相手に
出し惜しみをすることはできず、
しかしその結果一撃で大剣が壊れた。
「俺が気を引く。とにかく魔法を撃て。」
杉森の剣がなくなっても、
まだ凛太郎の短剣は残っている。
こちらももう限界はすぐそこだが、
何もないよりはいい。
凛太郎は死神モンスターの近くを
縦横無尽に駆け回り、
寺門の魔法を当てるために気を散らす。
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