第6話 お母さんをモフモフ!
「zzz。」
彼女は寝ている。
夢の中では・・・・・・。
「夢ちゃん!」
「モフちゃん!」
「アハハハハッー! アハハハハッー! アハハハハッー!」
夢の中で彼女は、笑顔でぬいぐるみと戯れていた。
「ピクちゃん!」
「エルちゃん!」
「フェアちゃん!」
「ティンちゃん!」
夢ちゃんとお友達になった妖精のぬいぐるみたちが、夢の中で勢ぞろい。
「みんな! 仲良くしようね。」
「おお!」
彼女は夢の中で楽しく過ごしている。
「夢夢!」
「モフモフ!」
「ピクピク!」
「エルエル!」
「フェアフェア!」
「ティンティン!」
「アハハハハッー! アハハハハッー! アハハハハッー!」
夢の中で彼女は、笑顔でぬいぐるみと戯れていた。
ガン! ガン! ガン!
フライパンを叩く大きな音が夢を壊す。
「夢! 起きなさい! あなたは、いつまで寝てるの!?」
毎朝、彼女は、お母さんの夢子の雷で目を覚ます。
「ふわ~あ! いいじゃない。寝たって。私、暇なんだから。」
彼女の名前は、希望夢。19才の無職の引きこもりである。
ピキーン!
「お母さん! 今日の夢は、お友達が総出演だったよ! アハッ!」
満面の笑顔で夢ちゃんは、モフちゃん妖精と妖精のぬいぐるみ4体を抱きしめて、お母さんにアピールする。
「うっ・・・・・・。」
母は娘の言動にダメージを受ける。
「いいから、起きるのよ! まったく・・・・・・。」
母は彼女の部屋から去っていく。
「負けるもんか! たくさんお友達を作るんだ! アハッ!」
彼女の趣味は、手芸。専門は、ぬいぐるみ作りである。
「タッ! タッ! タッ! タアッー!」
着替えて、顔を洗い、歯を磨く夢ちゃん。朝の準備完了。アハッ!
「おはよう!」
彼女は、居間にやってきた。
「いいな~。お姉ちゃんは寝てばかりで。」
夢ちゃんの弟の叶が姉を羨んでいた。
「おはよう。夢にしては早い方だ。」
夢ちゃんの父、夢男。
「そうね。いつも寝てばかりだものね。」
母も追い打ちをかける。
グサッ!
「ウッ!?」
夢ちゃんは家族の心無い言葉にダメージを受ける。
「そんなことはないよ。寝る子は育つっていうからね。夢ちゃんは育っている最中なんだよ。」
夢ちゃんのおばあちゃんのひばりが、孫をフォローする。
「おばあちゃん! 私に優しい家族は、おばあちゃんだけだよ!」
「大丈夫。おばあちゃんは、いつでも夢ちゃんの味方だよ。」
夢ちゃんに、とても優しいおばあちゃん。
「わしもいるぞ!」
夢ちゃんのおじいちゃんの裕次郎。
「ありがとう! おじいちゃん!」
夢は、現実的で厳しい両親ではなく、温かく優しい祖父祖母によって育てられた。
「やめてください! おじいちゃんまで。そうやって甘やかすから、夢が落ちこぼれで、引きこもりで、無職のニートになったんですよ!」
母、夢子の鋭い指摘。
「ウッ!?」
夢ちゃんの心にはグサグサと母の言葉が刺さる。
「じゃあ、お母さんは私にどうなってほしいのよ!?」
(もしも、お母さんが「頑張れ!」なんて言ったら、私は堂々と部屋に引きこもってやる!)
今の時代「頑張れ!」は禁句であった。どれだけ両親が理解を示し、子供に寄り添えるかが大切であった。
「そうね。私の願いは、娘がまともな人間になってくれることだけね。」
「え?」
母、夢子の願いは素朴なものであった。
「今のままだと、私たちが死んだら、あんた、一人で生きていけるの?」
「嫌だ。みんな死ぬなんて、寂しい。クスン。」
「あのね・・・・・・。」
すねる夢ちゃん。
「いつまでも引きこもりで生きていけると思わないでよ。仕事をしないとお金も無くなるし、そしたらご飯も食べれなくなるのよ。」
「嫌だ。ご飯食べたい! おやつもつけて!」
「・・・・・・。」
いちいち合いの手を入れる夢ちゃん。
「いい人を見つけて、結婚しないと、老後は一人で生きることになるのよ。孤独死よ。」
「嫌だ。お金持ちと結婚して、お父さんとお母さんに楽させてあげるんだ! アハッ!」
夢ちゃんの夢は大きく家族愛。
「そのためにも、家の外に出ないと。あんたが一番の粗大ごみよ。」
ガーン!
「ひ、酷い!? 何もそこまで言わなくても!?」
「そこまで言わないと、あんたには分からないでしょ。」
「うんうん。」
お父さんと弟は頷いて共感する。
「大丈夫! じいちゃんは夢ちゃんを応援してるぞ! 頑張れ! 夢!」
昔の世代のおじいちゃんは、現代の禁句を言ってしまう。
「就職に、コネなんかありませんしね。」
おばあちゃんも困ってしまう。
「私は、夢に幸せになってもらいたいだけなのよ。」
ぼそりと、母親の本音を呟いた。
「お、お母さん・・・・・・。」
一番最後の説教臭くない母親の言葉が一番、夢ちゃんの心に響いた。
そして、その日の夜。
「まさか、お母さんの困っていることが、私だったなんて・・・・・・ふあ~あ・・・・・・zzz。」
夢ちゃんは、おやすみした。
夢の世界へ・・・・・・。
「夢ちゃん。」
誰かが夢ちゃんを呼んでいる。
「夢ちゃん。」
「モフちゃん! お母さんが大変だった!?」
夢の中で再会する夢ちゃんとモフちゃん。
「夢ちゃん。夢ちゃんのお母さんを助けにいこう!」
「モフちゃん・・・・・・ありがとう。モフちゃんは私の大切なお友達だよ!」
彼女のぬいぐるみを愛する気持ちが、ぬいぐるみに奇跡を起こしたのである。
「よ~し! いくよ! モフちゃん!」
「おいで! 夢ちゃん!」
彼女は、ぬいぐるみに搭乗した。
「モフちゃんの中って、暖かくて柔らかい! モフモフ! モフモフ!」
モフモフして楽しんでいる彼女。
「さあ! 夢ちゃん! 悪者を倒しに行こう!」
「おお~!」
彼女は、モフちゃんを操つる。
「いた! って!? 私!? 私が悪者なの!?」
夢ちゃんの夢の中でも、お母さんを困らせる夢ちゃん自身を見つける。
「オラオラ! 私は夢ちゃんだぞ! 引きこもりだ! 無職だ! ニートだ! 私は悪くない! みんな! 世の中が悪いんだ! ワッハッハー!」
夢ちゃんの本音が悪意の塊のぬいぐるみになっている。デビル夢ちゃんぬいぐるみだ。アハッ!
「キャア!? 怖い!?」
「大丈夫だよ。何も怖くないよ。ここは夢ちゃんの夢の中なんだ。ニコッ!」
「私の、夢の中?」
そう、ここは彼女の夢の中。
「そうだよ。夢の中では、夢ちゃんの思い通りだよ。」
「私の思い通り・・・・・・。」
ピキーン!
「モフモフしちゃうぞ!」
「モフッ!」
ここで彼女に、覚醒スイッチが入る。
「いくよ! モフちゃん!」
「おお! 必殺技をかまそう!」
彼女はぬいぐるみを加速させ、悪者に突撃する。
「モフモフ・パンチー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
夢の中の悪者を、夢ちゃん搭載のぬいぐるみが殴る。
「デビル・モフモフ・パンチー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
夢の中の悪い夢ちゃんもパンチで迎え撃つ。
「ギャアアアアアアー!?」
両者、相打ちだった。
「痛い!? 私が私を倒すなんて無理だよ!? 相手も私なんだもん!?」
「でも、夢ちゃんの中の悪い夢ちゃんを倒さないと、引きこもり、無職、ニートは治せないんだよ!?」
「はい。私、何もしない引きこもりのままがいいです。温かいお家で、誰にもいじめられずに生きていきます。アハッ!」
この甘えや諦めが、夢ちゃんを引きこもりにして、喜びや楽しみも全てを奪ってしまった。
「いいの? それで? 夢ちゃんが変わらないと、お母さんは一生、救われないんだよ?」
「えっ?」
モフちゃんの問いかけは、夢ちゃんにお母さんのことを思い出させる。
「・・・・・・嫌だ。私だって、嫌だ! 私だって、自分を変えたい! もっと笑いたいし、お外にも出たい! ・・・・・・でも、世の中、悪い人や怖いことばっかりなんだもん!」
これが引きこもりの夢ちゃんの本音である。
「私だって、一人は嫌だ! もっと、輝きたいー!!!!!!」
夢ちゃんの言葉が輝き始める。
「大丈夫。夢ちゃんは一人じゃないよ。僕がいるじゃないか。僕は、いつも夢ちゃんと一緒だよ。ニコッ!」
モフちゃんが温かく夢ちゃんに微笑みかける。
「モフちゃん。そうだね。私には、モフちゃんがいるもの! うおおおおおー!」
夢ちゃんが甘えや諦めてを脱ぎ捨てる。
「悪い私を倒すんだ!」
夢の中で覚醒する夢ちゃん。
「ギャオオオオオ―!」
しかし、夢の中で悪い夢ちゃんが火を噴いて暴れている。
「やっぱり無理!? だって、怖いんだもん!?」
夢ちゃんは、ヘタレでしかなかった。
「困ったな?」
モフちゃんも夢ちゃんには、お手上げだった。
ピカーン!
その時だった。夢ちゃんの夢に4つの光が輝く。
「大丈夫だよ!」
「夢ちゃんには、私たちが付いているわ!」
「だから、怖がらないで!」
「勇気を出して!」
夢ちゃんが作った4つのぬいぐるみに命が宿り、夢ちゃんのピンチに助けに来てくれたのだ。
「み、みんな!? どうして!? ここに!?」
ピキーン!
「そ、そうか!? ここは私の夢なんだった!? アハッ!」
驚いたけど、納得する夢ちゃん。
「よし! みんな! 悪い私をぶっ飛ばそう!」
「おお!」
夢ちゃん、モフちゃん、妖精たちが心を一つにして立ち上がる。
「いくよ! みんな!」
「おお! 必殺技をかまそう!」
彼女はぬいぐるみたちを加速させ、悪い夢ちゃんに突撃する。
「モフモフ・パンチー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
悪い夢ちゃんを、夢ちゃん搭載のぬいぐるみたちが殴る。
「ギャアアアアアアー!」
夢の中の悪い夢ちゃんを倒した。
「ああ~、スッキリした! これで私は立ち直れるわ! アハッ!」
彼女は夢の中だけでも、悪い自分を退治して気持ち良かった。
「やった! やったよ! モフちゃん! ニコッ!」
彼女の顔に笑顔が戻った。
「おめでとう! 夢ちゃん!」
夢ちゃんは、少しだけ前向きに、自分のことが好きになれたのかもしれない。
「みんな! 助けに来てくれて、ありがとう!」
「ピクピクしちゃうぞ! ピクッ!」
「エルエルしちゃうぞ! エルッ!」
「フェアフェアしちゃうぞ! フェアッ!」
「ティンティンしちゃうぞ! ティンッ!」
「夢ちゃん! ありがとう!」
妖精たちの素晴らしいシンクロである。
「ああ~。私はなんて幸せなんだ。アハッ!」
そして、夢から覚めた・・・・・・。
次の日。
「お母さん! 私! 引きこもりやめる! 部屋から出るよ!」
夢ちゃん、遂に覚悟を決める。
「遂に、遂に、夢が立ち直るのね・・・・・・うるうる。」
鬼婆の母、夢子の目に涙が。
(できる! 私ならできる! なぜなら自分をモフモフしちゃったからです!)
こうして夢ちゃんの夢が、不条理な現実を少し正します。
「はい! とりあえず、ポストから新聞を取って来ました!」
「ズコー!?」
家族はズッコケるしかなかった。
「ウォーミングアップよ。ウォーミングアップ! アハッ!」
笑って誤魔化す夢ちゃんであった。
「ニコッ!」
笑っている彼女の姿を見て、ぬいぐるみが少し笑っているように見えた。
(ありがとう。モフちゃん。ぬいぐるみさんたち。ニコッ!)
夢は見るものではなく、夢は叶えるものだから。
つづく。
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