第4話 弟をモフモフ!

「zzz。」


 彼女は寝ている。


 夢の中では・・・・・・。


「夢ちゃん!」


「モフちゃん!」


「アハハハハッー! アハハハハッー! アハハハハッー!」


 夢の中で彼女は、笑顔でぬいぐるみと戯れていた。


「今日の新しいお友達は、妖精のフェアちゃん!」


「妖精フェアリーのフェアです。よろしくね。フェアフェアしちゃうぞ! フェアッ!」


「こちらこそ。よろしく。」


「仲良くしようね。」


 彼女は夢の中で楽しく過ごしている。


「夢ちゃん!」


「モフちゃん!」


「フェアちゃん!」


「アハハハハッー! アハハハハッー! アハハハハッー!」


 夢の中で彼女は、笑顔でぬいぐるみと戯れていた。


ガン! ガン! ガン!


 フライパンを叩く大きな音が夢を壊す。


「夢! 起きなさい! あなたは、いつまで寝てるの!?」


 毎朝、彼女は、お母さんの雷で目を覚ます。


「ふわ~あ! いいじゃない。寝たって。私、暇なんだから。」


 彼女の名前は、希望夢。19才の無職の引きこもりである。


ピキーン!


「お母さん! 私、お友達が増えたよ!」


「げっ?」


 母親は、まさか!? っと思っている。


「妖精フェアリーのフェアちゃん!」


 彼女は、妖精のぬいぐるみを笑顔で母親に見せる。


「い、痛い・・・・・・。」


 母は娘の言動にダメージを受ける。


「いいから、起きるのよ! まったく・・・・・・。」


 母は彼女の部屋から去っていく。


「負けるもんか! たくさんお友達を作るんだ! アハッ!」


 彼女の趣味は、手芸。専門は、ぬいぐるみ作りである。


「タッ! タッ! タッ! タアッー!」


 着替えて、顔を洗い、歯を磨く夢ちゃん。朝の準備完了。アハッ!


「おはよう!」


 彼女は、居間にやってきた。


「いいな~。お姉ちゃんは寝てばかりで。」


 夢ちゃんの弟が姉を羨んでいた。


「どうしたの?」


「僕だって、勉強とか、人間関係とか、小学生でも大変なんだから。はあ~あ。」


 弟も夢ちゃんみたいに、学校で苦労していた。


「分かる! 分かるわ! 学校って、強制的に行かされて、先生はいるけど、何もしないから、無法地帯だものね。」


 夢ちゃんも学生時代に、いじめられて、先生に助けを求めても、何もしてくれなかった。


ピキーン!


「まさか!? あなたも私と同じように、学校でいじめられているの!?」


 夢ちゃんは、気づいてしまった。


「違うよ! 僕はお姉ちゃんみたいな引きこもりにはならないんだー! 学校に行ってきます!」


 弟は、認められずに、居間から立ち去り通学する。 


「・・・・・・私がいじめられっ子で、引きこもりだから、弟もいじめられるターゲットになっちゃうの?」


 認めたくはない真実である。夢ちゃんに弟がいるということは、いじめっ子にも弟や妹がいるのだ。そして、姉をいじめた。次は、おまえが弟をいじめろと。


「なんて!? 酷いことをするの!? 私だけならともかく!? 私の弟だからって、いじめるの!?」


 これは不幸の連鎖である。姉をいじめた子の家庭は道徳観念が崩壊している。親が腐っている、暴力を振るい、子供を殴るなら、そのいじめっ子の弟も、いじめっ子なのである。


「酷い・・・・・・あんまりよ・・・・・・zzz。」


 夢ちゃんは、悲しくて眠ってしまう。


 夢の世界へ・・・・・・。


「夢ちゃん。」


 誰かが夢ちゃんを呼んでいる。


「夢ちゃん。」


「モフちゃん! 弟が大変なの!?」


 夢の中で再会する夢ちゃんとモフちゃん。


「夢ちゃん。夢ちゃんの弟が大変だ。弟を助けにいこう!」


「モフちゃん・・・・・・ありがとう。モフちゃんは私の大切なお友達だよ!」


 彼女のぬいぐるみを愛する気持ちが、ぬいぐるみに奇跡を起こしたのである。


「よ~し! いくよ! モフちゃん!」


「おいで! 夢ちゃん!」


 彼女は、ぬいぐるみに搭乗した。


「モフちゃんの中って、暖かくて柔らかい! モフモフ! モフモフ!」


 モフモフして楽しんでいる彼女。


「さあ! 夢ちゃん! 悪者を倒しに行こう!」


「おお~!」


 彼女は、モフちゃんを操つる。


「いた! 弟をいじめている悪者だ!」


 夢ちゃんの夢の中でも、いじめっ子のぬいぐるみを見つける。


「オラオラ! 俺様は強いんだ! 弱い奴をいじめてやる! 家で親に暴力を教わっているんだ! ワッハッハー!」


 いじめっ子は、弱い者いじめしかしない。


「キャア!? 怖い!?」


「大丈夫だよ。何も怖くないよ。ここは夢ちゃんの夢の中なんだ。ニコッ!」


「私の、夢の中?」


 そう、ここは彼女の夢の中。


「そうだよ。夢の中では、夢ちゃんの思い通りだよ。」


「私の思い通り・・・・・・。」


ピキーン!


「モフモフしちゃうぞ!」


「モフッ!」


 ここで彼女に、覚醒スイッチが入る。


「いくよ! モフちゃん!」


「おお! 必殺技をかまそう!」


 彼女はぬいぐるみを加速させ、いじめっ子に突撃する。


「モフモフ・パンチー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 夢の中のがんを、夢ちゃん搭載のぬいぐるみが殴る。


「ギャアアアアアアー!」


 夢の中のがんを一撃で倒した。


「ああ~、スッキリした! 弟よ! あなたのお姉ちゃんはやったぞ! アハッ!」


 彼女は夢の中だけでも、弟を助けて気持ち良かった。


「やった! やったよ! モフちゃん! ニコッ!」


 彼女の顔に笑顔が戻った。


「おめでとう! 夢ちゃん!」


 夢ちゃんは、少しだけ前向きに、自分のことが好きになれたのかもしれない。


 そして、夢から覚めた・・・・・・。


 その日の夜。 


「やったー! いじめっ子が転校することになったんだ! ヤッホー!」


 これで嫌な思いをせずに学校に行けると弟は大喜び。


「えっ!?」


(まさか!? また私、モフモフしちゃった!?)


 こうして夢ちゃんの夢が、不条理な現実を少し正します。


「叶。良かったね。これでお姉ちゃんも一安心だわ。アハッ!」


 夢他ちゃんの弟の名前は、叶(かなう)。希望叶である。ちょっと、カッコイイ。


「僕は、お姉ちゃんみたいにいじめられたからって、泣き寝入りはしない! 引きこもらない! 僕は強く生きるんだ!」


「ズコー!?」


 夢ちゃんはズッコケしかなかった。


(そして、お姉ちゃんも、僕が守るんだ!)


 照れくさいから、声にして言葉にはできないけど、弟は姉のことを大切に思っている、兄弟愛である。


「ニコッ!」


 笑っている彼女の姿を見て、ぬいぐるみが少し笑っているように見えた。


(ありがとう。モフちゃん。)


 夢は見るものではなく、夢は叶えるものだから。


 つづく。

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