第3話 おばあちゃんをモフモフ!

「zzz。」


 彼女は寝ている。


 夢の中では・・・・・・。


「夢ちゃん!」


「モフちゃん!」


「アハハハハッー! アハハハハッー! アハハハハッー!」


 夢の中で彼女は、笑顔でぬいぐるみと戯れていた。


「今日の新しいお友達は、妖精のエルちゃん!」


「妖精エルフのエルです。よろしくね。エルエルしちゃうぞ! エルッ!」


「こちらこそ。よろしく。」


「仲良くしようね。」


 彼女は夢の中で楽しく過ごしている。


「夢ちゃん!」


「モフちゃん!」


「エルちゃん!」


「アハハハハッー! アハハハハッー! アハハハハッー!」


 夢の中で彼女は、笑顔でぬいぐるみと戯れていた。


ガン! ガン! ガン!


 フライパンを叩く大きな音が夢を壊す。


「夢! 起きなさい! あなたは、いつまで寝てるの!?」


 毎朝、彼女は、お母さんの雷で目を覚ます。


「ふわ~あ! いいじゃない。寝たって。私、暇なんだから。」


 彼女の名前は、希望夢。19才の無職の引きこもりである。


ピキーン!


「お母さん! 私、お友達が増えたよ!」


「げっ?」


 母親は、まさか!? っと思っている。


「妖精エルフのエルちゃん!」


 彼女は、妖精のぬいぐるみを笑顔で母親に見せる。


「い、痛い・・・・・・。」


 母は娘の言動にダメージを受ける。


「いいから、起きるのよ! まったく・・・・・・。」


 母は彼女の部屋から去っていく。


「負けるもんか! たくさんお友達を作るんだ! アハッ!」


 彼女の趣味は、手芸。専門は、ぬいぐるみ作りである。


「タッ! タッ! タッ! タアッー!」


 着替えて、顔を洗い、歯を磨く夢ちゃん。朝の準備完了。アハッ!


「おはよう!」


 彼女は、居間にやってきた。


「早く! 支度しなさい!」


 お母さんがバタバタしていた。


「どうしたの?」


 何も状況が分かっていない、夢ちゃん。


「おばあちゃんが病院に救急車で運ばれたのよ!」


「なんですと!?」


 正に、風雲急を告げる。


「なんで早く起こしてくれないのよー!?」


「私は、起こしましたよー!!!!!!」


 夢ちゃんの逆ギレに、お母さんはブチ切れた。


「おばあちゃん! 待ってて! 直ぐに行くからね!」


 夢ちゃんは、おばあちゃんっ子である。厳しいお母さんから守ってくれたのも、おばあちゃん。裁縫を教えてくれたのも、おばあちゃんである。


 そして、病院へ・・・・・・。


「おばあちゃん!? おばあちゃん!? うえ~んー!!!!!!」


 ベットで意識なく寝ているおばあちゃんに、泣き叫ぶ夢ちゃん。


「おばあちゃん、がんで、もう長くないんですって・・・・・・。」


ガーン!


「がん!? そんな!? おばあちゃんー!!!!!!」


 夢ちゃんは助からないおばあちゃんに泣き叫んだ。


 そして・・・・・・。


「zzz。」


 泣きつかれて眠ってしまった。


 夢の世界へ・・・・・・。


「夢ちゃん。」


 誰かが夢ちゃんを呼んでいる。


「夢ちゃん。」


「モフちゃん! おばあちゃんが、おばあちゃんが大変なの!?」


 夢の中で再会する夢ちゃんとモフちゃん。


「夢ちゃん。夢ちゃんのおばあちゃんが大変だ。おばあちゃんを助けにいこう!」


「モフちゃん・・・・・・ありがとう。モフちゃんは私の大切なお友達だよ!」


 彼女のぬいぐるみを愛する気持ちが、ぬいぐるみに奇跡を起こしたのである。


「よ~し! いくよ! モフちゃん!」


「おいで! 夢ちゃん!」


 彼女は、ぬいぐるみに搭乗した。


「モフちゃんの中って、暖かくて柔らかい! モフモフ! モフモフ!」


 モフモフして楽しんでいる彼女。


「さあ! 夢ちゃん! 悪者を倒しに行こう!」


「おお~!」


 彼女は、モフちゃんを操つる。


「いた! おばあちゃんをいじめている悪者だ!」


 夢ちゃんの夢の中でも、がんのぬいぐるみを見つける。


「オラオラ! 俺様はがんだ! 最強の病気だぞ! 俺にかかった人間は助からないのだ! ワッハッハー!」


 がんは、弱い者いじめしかしない。


「キャア!? 怖い!?」


「大丈夫だよ。何も怖くないよ。ここは夢ちゃんの夢の中なんだ。ニコッ!」


「私の、夢の中?」


 そう、ここは彼女の夢の中。


「そうだよ。夢の中では、夢ちゃんの思い通りだよ。」


「私の思い通り・・・・・・。」


ピキーン!


「モフモフしちゃうぞ!」


「モフッ!」


 ここで彼女に、覚醒スイッチが入る。


「いくよ! モフちゃん!」


「おお! 必殺技をかまそう!」


 彼女はぬいぐるみを加速させ、いじめっ子に突撃する。


「モフモフ・パンチー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 夢の中のがんを、夢ちゃん搭載のぬいぐるみが殴る。


「ギャアアアアアアー!」


 夢の中のがんを一撃で倒した。


「ああ~、スッキリした! おばあちゃん! あなたの孫はやりましたよ! アハッ!」


 彼女は夢の中だけでもおばあちゃんを助けて気持ち良かった。


「やった! やったよ! モフちゃん! ニコッ!」


 彼女の顔に笑顔が戻った。


「おめでとう! 夢ちゃん!」


 夢ちゃんは、少しだけ前向きに、自分のことが好きになれたのかもしれない。


 そして、夢から覚めた・・・・・・。


「ん・・・・・・ん・・・・・・。」


「よしよし。」


 誰かが夢ちゃんの頭をナデナデしてくれている。


「おばあちゃん!?」


 夢ちゃんのおばあちゃんの意識が戻ったのだ。


「がんが!? なくなっただと!? 治ったというのか!?」


「先生!? 信じられません!?」


 医者と看護婦が異常現象にパニックになっていた。


「えっ!?」


(まさか!? また私、モフモフしちゃった!?)


 こうして夢ちゃんの夢が、不条理な現実を少し正します。


「おばあちゃん、大丈夫なの?」


「そうだよ。これも夢ちゃんが私のことを心配してくれたからだよ。ありがとう。ゆめちゃん。」


 おばあちゃんは、温かく優しい笑顔で夢ちゃんを包み込む。


「良かった! 大好きだよ! おばあちゃん!」


 そして夢ちゃんはおばあちゃんに感謝の気持ちを述べる。


「おばあちゃん、ぬいぐるみの作り方が分からない所を教えてよ。」


「いいよ。退院したらね。私があげた、モフちゃんは元気にしているかい?」


「モフちゃんは元気だよ! 元気すぎだよ!」


「そうかい。ワッハッハー!」


 こうしておばあちゃんと孫は、幸せの笑顔が溢れ、優しさに包まれるのであった。


「ニコッ!」


 笑っている彼女の姿を見て、ぬいぐるみが少し笑っているように見えた。


(ありがとう。モフちゃん。)


 夢は見るものではなく、夢は叶えるものだから。


 つづく。

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