41日目~45日目

41日目


講義棟の掲示板に、新しい時間割が貼られていた。近づくと紙の端が黄ばんでいて、日付が去年のもの。教授の名前も知らない人だった。誰かの悪戯かと思ったが、周りの学生は誰も見ていない。帰り道、道沿いの花壇の花が萎れている。昨日は咲いていた気がする。風の匂いが鉄っぽい。今日も風呂は長め。


42日目


寮の郵便受けにチラシが入っていた。入試案内。表紙のデザインが古い。発行年が三年前になっている。配布ミスかと思ったが、他の部屋の受け口にも同じものが挟まっていた。部屋に戻ると、ドアノブが冷たく濡れていた。天気は晴れなのに。手のひらに跡が残るほどの冷たさだった。今日も風呂は長め。


43日目


授業の途中で突然停電した。暗闇の中、窓だけがぼんやり白く光る。ガラスの向こうに黒い人影がいくつも並んでいる。静かに立っているだけ。教授も学生も声を出さない。電気が戻った瞬間、全員が席を変えていた。僕の前の席には誰もいなかった。床が濡れている。今日も風呂は長め。


44日目


朝、寮の廊下で靴音が響いた。追い越された気がしたが、前にも後ろにも人はいない。壁の時計が止まっている。針が五時二十三分で止まったまま動かない。スマホの時刻と合っていない。画面の数字がゆらいで見える。窓を開けると、外の空気が濃い霧のようで、視界が白い。今日も風呂は長め。


45日目


昼過ぎ、校舎の玄関前に黄色いテープが張られていた。「立入禁止」。見たことのない警備員が立っている。何かの工事かと思ったが、掲示の説明がない。反対側の入り口から入ると、誰もいない教室が並んでいる。空調の音だけが続く。机の上に置いたノートが湿って波打った。今日も風呂は長め。

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