36日目~40日目
36日目
昼過ぎ、雨。キャンパスの地面は浅い水に覆われていた。歩くたび靴が沈む。校舎の壁に貼られた掲示に「旧学生寮:解体予定」と書かれていた。僕の住んでいる寮の名前と同じだった。日付は去年。貼り替え忘れだろうか。帰り道、傘に触れる音がもう一つ聞こえた。今日も風呂は長め。
37日目
夕方、シャワーの水がぬるい。湯気が出ない。排水溝の奥から泡が浮かび上がってくる。手で触れると冷たい。蛇口を閉めても止まらない。洗面台の鏡が曇り、拭くと自分の顔が少し歪んで映った。瞳の位置がずれている。拭き取ると消えた。寝る前に床の染みが広がっていることに気づいた。今日も風呂は長め。
38日目
朝、講義室の机に水滴が点々と並んでいた。僕が触れると消える。隣の席の椅子がきしんだ音を立てた。誰も座っていない。窓の外の芝生に黒い影が立っている。服が濡れていて、顔が見えない。目を離した瞬間にいなくなった。胸の奥に冷たい空気が入る。今日も風呂は長め。
39日目
夜、寮の廊下の電気が切れた。懐中電灯を点けると、奥の壁に人の輪郭が浮かんだ。濡れたような黒。光を当てると消える。足元の床板が冷たい。ドアを閉めても音が残る。耳の奥で水がはねるような響き。寝つけずにノートを書いていると、ページが波打ち始めた。今日も風呂は長め。
40日目
鏡の中の自分がまばたきをしなかった。息を止めて見つめていたら、曇りが鏡の内側に広がっていった。指で拭うと、鏡の中の僕が遅れて同じ動きをした。わずかに口が開いた。声は聞こえない。鏡面に水滴が落ちて、僕の輪郭が崩れた。床の足跡が鏡の前まで続いている。今日も風呂は長め。
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