第43話 氷夢の正体



「九曜。今夜はいつになく盛大な舞踏会だな」



 政陽は桜華と別れて九曜に話かける。



「まあな。今夜の主催は災破が行っている。自分の力を見せつけたいのだろう」



 九曜は酒を飲みながら政陽に答える。



「三魔王子の権力争いは相変わらずか」


「ああ。私は楽しめていいが巻き込まれる者どもは大変だろうな」



 九曜は楽しそうに笑う。

 九曜は自分の子供たちの権力争いを見て楽しんでいる。

 元々女好きということもあり女に自分の子供を産ませてはそのことで起こる争いを酒の肴にしているのだ。



「桜華殿はどうしたのだ?」


「今、化粧室に行っている」


「政陽。お前は桜華殿を大公妃に迎えるつもりか?」



 九曜は声を潜めながら政陽に訊いてきた。



「ああ。いずれ時が来たら正式に妻に迎えるつもりだ」


「そうか……お前は見つけたのだな。唯一の存在を」


「そうだ。桜華を手放す気はない」


「だが自分より先に死んでいく存在だぞ」



 九曜の言葉には重みがある。

 神である自分はまだまだ生きるだろう。

 それは創造神オルシオンが目覚める時までかそれともこの世界の終わりの時までか。


 天使族に過ぎない桜華が政陽より先に亡くなるのは紛れもない事実だ。

 天帝の飛翔が愛した女のことを想ってこれからも永遠に近い時を生きるように政陽も桜華が亡くなった後は桜華を想って長い時を過ごすだろう。

 だからと言って桜華と出逢わなければ良かったとは思えない。


 九曜が特定の女性を愛さないのも一つの生き方だろう。

 だが政陽は飛翔と同じ道を選択する。

 ただ唯一の女性を愛する道を。



「九曜。桜華を愛することは愚かなことだと思うか?」



 政陽の言葉に九曜は僅かに笑う。



「いや。セイらしいと思うぞ。お前は私や飛翔より貧乏くじを引いたからな束の間でも幸せがあっていいんじゃないか」


「幸せか……」



 そこへ氷夢が近づいて来た。



「魔王様。内密なお話が」


「何だ?」


「ここでは人目がありますので」


「かまわぬ。結界を張るから申してみよ」


「そちらの大公様にも関わるお話です」


「私にも?」



 氷夢の言葉に政陽は首を傾げる。

 九曜は周りに気付かれないように政陽と氷夢と自分を周りから切り離す結界を張る。

 これで周囲には会話は聞かれずに済む。



「申してみよ」


「はい。桜華様が雷牙の手の者に攫われた模様です」


「なんだと!」



 政陽がすぐにでも飛び出して行きそうなのを九曜が止める。



「待て、政陽。迂闊に動くと桜華の命に関わる」



 九曜の言葉で政陽は動きを止めた。



「それで氷夢よ。桜華はどこに攫われたのだ?」


「はい、魔王様。私の部下が後を追っています。しばらくすれば場所が判明するでしょう」



 氷夢は淡々と九曜に報告する。

 その様子に政陽は違和感を覚える。

 氷夢は完全に九曜の配下のような態度だ。



「氷夢よ。なぜお前はそのことを知っている?」


「今回の舞踏会で雷牙が何かことを起こすのではないかと魔王様に言われ雷牙の動きをマークしていました」


「九曜に言われて?」



 九曜は三魔王子の誰の味方もしていなかったはずだ。



「セイには言ってなかったが氷夢は私の腹心だ。三魔王子としての氷夢は災破と雷牙を見張るための隠れ蓑に過ぎぬ」


「なんだと?」


「大公様。私は魔王様の息子ということになっていますが実は魔王様に作られたモノでしかありません」


「それは本当か、九曜」


「ああ。氷夢は私が作った人形よ。魔力を込めて私の息子ということにしている存在に過ぎん」



 政陽は驚きの顔をする。

 確かに九曜の力を使えば人形に仮の命を吹き込むことは可能だろう。



「私にも黙っていたのか、九曜」


「敵を騙すには味方からってな。悪く思うな政陽。それに今は桜華を助け出すのが先決だ」


「場所さえ分かれば私が助け出す」


「それでもいいが雷牙を完全に消したい。あやつは私の気に入りの女を何人も殺した。そろそろ目障りに思っていたところだ」



 九曜が憎々し気に言う。



「では雷牙を殺しても問題ないか?」


「ああ、かまわん。氷夢、桜華のいる場所を至急特定せよ」


「は、承知しました」



 そう言うと氷夢は姿を消した。



「雷牙のやつ。闇に葬ってやる!」



 政陽は怒りを爆発させた。




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