第38話 桜華の救出
もうすぐ日の入りの時刻だ。
星の神殿跡に行かねばならない。
「日向。お前は力が弱っているからこの別邸で休んでいろ」
政陽は日向の体を考え別邸で休ませることにした。
「ご心配おかけして申し訳ありません。ありがとうございます。政陽様、お気をつけて」
「ああ。飛翔。そろそろ行くか?」
「そうだな。私たちの羽ならそんなに時間はかからないだろう」
飛翔は黄金の羽を羽ばたかせる。
政陽も黒い闇のような羽を出した。
二人は別邸から飛び立ち飛翔の先導で天界の端にある星の神殿跡に向かって飛行する。
瞬間移動してもいいのだがわざと飛翔が一人であることを印象付けるため羽で飛んで行った方がいいだろうということになったのだ。
「星の神殿跡はもうすぐだ。政陽。お前は私が誘拐犯を引き付けている間に桜華殿を助け出せ」
「分かった。私は別方向から星の神殿跡を目指す」
そういうと政陽は飛翔と別れて向きを変えた。
政陽の姿が見えなくなるとわざと飛翔は霊力を使って自分の存在が近づいていることを誘拐犯たちに教える。
飛翔が星の神殿跡に着くと周囲を多くの天翔族や天空族の者が剣を持ち取り囲む。
「約束どおり来てやったぞ。桜華は無事であろうな?」
飛翔の周りを取り囲む者の中から女が一人進み出る。
「へえ。天帝が女一人のために命をかけるとはな。まだあの女は無事さ。だがあんたが私たちに逆らったらすぐに殺す」
「お前は天翔族の伽羅だったな」
「私の名前を覚えていただいて光栄だよ。天帝様」
伽羅はニヤリと笑う。
「さあ。腰に提げている剣をこちらに寄越しな」
飛翔は言われたとおり剣を伽羅の方に放り投げる。
「霊力を使ったりしたらあの女の命はないからね」
伽羅は用心深く飛翔の剣を拾い上げる。
「抵抗はしないさ。まあ、お前たちに私が斬れればいいがな」
「なんだと!? 私たちを馬鹿にするつもりかい?」
伽羅は自分の剣をかまえる。
するとその瞬間、星の神殿跡の奥から爆発音が聞こえた。
「なんだ!?」
伽羅たちが慌てる瞬間を狙って飛翔は結界を星の神殿跡全体に張った。
「何するんだい!」
「お前たち反乱分子を逃がさないためさ。この結界は私が自ら解くか私が死ななければ解けないぞ」
飛翔の顔には普段天族には見せない残忍な表情が浮かんでいた。
「伽羅様! 何者かに女を奪われました……ぐっ!!」
神殿内から出て来た男がそう報告し倒れる。
男は背中を剣で斬られていた。
神殿内から政陽が助け出した桜華と出て来た。
「飛翔。桜華を救出したぞ。後は好きにやれ」
「早かったな。まあ、当たり前か」
「何やってるんだい! 三人とも殺しちまいな!」
伽羅の一言で周りを取り囲んでいた男たちが一斉に飛翔や政陽たちに斬りかかる。
「フン! 甘いわ!」
飛翔は霊力を使って生み出した光の刃を向かってくる奴らにぶつける。
「ぐああああ!」
「ぎゃああああ!」
男たちは次々に血まみれになって倒れていく。
伽羅に焦りが見え始める。
「天帝! 覚悟!」
伽羅は飛翔に剣で斬りかかるが一瞬早く飛翔が光の刃で伽羅の腕を切り落とした。
「ぐはっ!」
伽羅は痛みのためにもがき苦しむ。
飛翔は伽羅にとどめを差すべく光の刃を振りかざした。
「天帝様!もう充分です。お怒りを静めてください!」
桜華の叫ぶような声に飛翔の動きが止まる。
桜華は伽羅と天帝の間に自分の体を入れて両手を広げる。
「娘。邪魔するでない。反乱分子は一人残らず始末せねばまた懲りずに私を倒そうとするだろう」
「では正式な裁判を受けさせてください。裁判の結果死罪であったのならば私も受け入れます」
「こやつらに裁判だと?」
「はい。誰でも罪人は裁判によって裁かれるのが天界では正しいはずです」
桜華は天使学校で習ったことを思い出しながら飛翔に訴える。
ここで伽羅たちを皆殺しにするのは簡単だ。
だがこれ以上飛翔の手を血で汚してもらいたくなかった。
「桜華。これは天界の問題だ」
政陽が桜華の体を抱きしめる。
「でも私は天帝様の手を血で汚したくはありません」
「なるほど。私にまた意見するとはな」
飛翔は溜息をついた。
飛翔の周囲には多くの傷ついた天翔族や天空族の者たちが倒れている。
中には死んでいる者もいる。
桜華は自分のために人が亡くなるのを見たくない。
たとえ犯罪者といえども虐殺するのは間違っている。
桜華の強い瞳を見ていた飛翔だったが光の刃を消してくれる。
「分かった。こやつらは後日裁判にかける。まあ、天帝の命を狙った者は死罪だとは思うがな」
「ありがとうございます。天帝様」
飛翔はそう言うと伽羅たちを霊力のロープで縛りあげる。
「あとで私の部下にこいつらを引き取りに来させよう」
「飛翔、いいのか?」
「ああ。私は天帝だ。常に法を守り正しくあらねばならない……そうだろう? 桜華よ」
「はい。それでこそ天帝様です」
「では私たちは別邸に戻ろう。日向も心配しておるだろうからな」
そう言うと飛翔と政陽は別邸まで桜華を連れて瞬間移動した。
別邸では日向が待っていた。
「桜華様。ご無事でなによりです」
「日向様お怪我は?」
「天帝様に治していただきました」
「そう、それは良かったわ」
「少し休んだら魔界に戻るぞ」
「承知いたしました」
日向は政陽に頭を下げる。
「やれやれとんだ面倒ごとに巻き込まれたな」
「政陽たちにはすまないことをしたな。まあ、たまには桜華殿を連れて遊びに来い」
飛翔は穏やかな笑みを見せる。
「はい。またぜひお会いしたいです。天帝様」
桜華がそう言うと天帝は桜華を眩しそうに見る。
「桜華殿を見ていると日花を見ているようだ」
「日花?」
「私の母の名前です」
日向が桜華に説明する。
「そうなの。日花様というのね」
「桜華のことはお前にはやらんぞ」
政陽が桜華を抱きしめて飛翔に警告する。
「分かっておる。手は出さんよ」
飛翔は苦笑いをした。
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