第34話 天の泉
「この場所だったらすぐ近くですね。政陽様、ここなら私と桜華様で行ってまいりますよ」
日向は地図を見ながら政陽に言う。
「そうだな。政陽はこの別邸にいるがいい。お前が天族に見つかると厄介だ」
飛翔も政陽に別邸に留まるように進言する。
日向と違って政陽の顔を知っている天族はいる。
それは政陽が天界と魔界の戦の時に調停役をしているからだ。
今の若い天族は政陽の顔を知らないだろうが少し長生きしている者であれば政陽のことを知っているだろう。
政陽が天界に姿を現すことであらぬ騒ぎになっても仕方ない。
「分かった。私はここで飛翔と待っているから桜華を連れて天の泉に行ってきてくれるか?」
「はい。承知いたしました」
「桜華。日向と行って来れるか?」
「大丈夫です。これでも天界に住んでいたことがあるのですから」
桜華は政陽が心配しないように微笑む。
「では桜華様。参りましょうか?」
「はい。日向様」
二人は天帝の別邸から出発した。
別邸を出ると別邸の周りは森になっていた。
桜華と日向は自分の羽を出して飛んでいく。
桜華は久しぶりの天界の空気に懐かしさを感じた。
魔界の空気は天族の桜華には少し重たく感じるが天界の空気は桜華に力を与えてくれる気がする。
やがて川を挟み別邸があった森とは違う森の風景になった。
「桜華様。もうすぐです」
日向に案内されて行くと小さな建物が見えた。
どうやらそこが目的の神殿らしい。
桜華と日向は神殿の入り口に舞い降りた。
「天の泉はどこかしら?」
「この神殿内にあるのは確かです。中に入りましょう」
神殿内に入っても人の気配はしない。
神殿というから神官がいるのかと思ったがそうではないようだ。
「あ、あそこに泉があるわ」
桜華は神殿の中央の中庭になっている部分に泉を見つけた。
泉は七色に輝いている。
「これが天の泉に違いありません。桜華様、指輪をした手を泉の中に入れてみてください」
「分かったわ」
桜華は恐る恐る右手を泉にいれてみる。
そして左手で指輪を抜こうとすると指輪は嘘のように簡単に取れた。
「やったわ! 取れたわ」
桜華は嬉しくて思わず声を上げる。
「良かったですね。指輪は私が持っておきましょう」
桜華は日向に指輪を渡す。
日向は小さな袋に指輪を入れた。
ヒュッ!
その瞬間、何かが空気を裂いた音がした。
「うっ!」
ドスっという音が聞こえ日向が蹲った。
「日向様!」
日向の右肩には矢が刺さっていた。
「ううっ」
呻く日向に桜華は近付こうとしたが後ろから桜華の口元に布のようなモノが当てられる。
それと同時に桜華の体は拘束された。
複数の男たちが現れて桜華と日向を取り囲む。
日向は剣を抜こうとしたが男の一人が日向に向かって声を発した。
「おっと! 動くんじゃないよ。この女がどうなってもいいのかい?」
「ぐ! 何者だ! 貴様ら!」
日向は桜華が捕まっているため剣を抜けない。
しかも矢が刺さっているところからかなりの出血をしていた。
「お前らその方がどなたか知っているのか!」
日向は男たちに言う。
「知っているさ。天帝の大事な女だろう? お前たちが天帝の別邸から出てきたことは分かってるんだ」
日向はそのことに対して何も言わない。
「いいか。帰って天帝に伝えろ。明日の太陽が日の入りする時刻に天帝が一人で「星の神殿跡」に来いとな。それまでこの女を預かっておく」
男たちはそう言うと剣を桜華に突きつけて神殿から出て行く。
桜華は抵抗したが男の力には敵わず薬をかがされて意識を失った。
男たちは桜華を連れて姿を消した。
「早く。政陽様に報せないと……」
日向は矢が刺さったままなんとか天帝の別邸に向かって飛び立つ。
矢が刺さっているので日向は羽を動かす度に激痛が走ったが無理やり羽を動かす。
そして天帝の別邸に辿り着いた。
「日向! どうしたんだ!」
天帝と政陽の待っている部屋に入ってきた日向を見て政陽が走り寄る。
日向は倒れ込みながらも政陽に告げる。
「政陽様。大変です。桜華様……が何者かに連れ去られました」
「なんだと!?」
「天帝様にそいつらから伝言が……明日の日の入りの時刻に天帝様が一人で「星の神殿跡」まで来るようにと……」
そこまで伝えると日向は気を失った。
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