第28話 魔界桜



 魔王城から帰る途中で政陽は寄り道をした。

 政陽が立ち寄った町は農作物や観賞用の植物などを栽培し魔界全土に輸出している町だ。

 ここには多くの魔界特有の植物の種や苗が売っている。



「政陽様。何を買われるのですか?」



 流星がお店を眺めながら何かを探している政陽に向かって話かける。



「桜華の土産に『魔界桜』の苗をあげようと思ってな」


「魔界桜ですか」



 魔界桜は成長が早く苗で買っても一年で花が咲くまでの木に成長する。

 花はピンク色で可愛い花をつけるものだ。



「そういえば桜華様は桜の華という名前でしたね」


「ああ。だから桜華に魔界桜を渡したら喜ぶのではないかと思ってな」


「それは良いお考えです」



 流星は政陽の考えに同意する。

 政陽は一軒のお店の前で羽馬を降りてお店の中を見てみた。



「へい。いらっしゃい。旦那様」



 店の主人がにこやかに政陽を出迎える。



「魔界桜の苗を探しているのだがあるだろうか?」


「魔界桜ですか? それならこちらにございます」



 店の主人はそう言うと店の奥から魔界桜の苗を二つ持ってくる。



「二種類ありますがどうしますか? 一つは普通のピンク色のタイプでもう一つは白い花とピンクの花が混ざり合って咲く新種です」


「なるほど。白い花とピンク色の花が同時に楽しめるのか」


「ええ。でも値段は新種の方が従来の物より2倍の値段がしますが」


「値段はかまわない。新種の方を貰おう」


「へい。ありがとうございやす」



 政陽の言葉に主人はホクホク顔で新種の魔界桜の苗を袋に入れてくれる。



「新種の方も一年で花が咲くのか?」


「ええ。成長のスピードは従来の物と変わりません。来年の今頃は見事な桜が咲きますぜ」


「そうか。ありがとう」



 政陽の代わりに流星が会計を済ませた。

 桜の苗を大事そうに抱えて政陽は羽馬で神霊宮を目指す。


 桜華は魔界の植物が気に入ったらしく中庭に咲く花や植物を見つけては政陽にこれはどういうものなのかよく尋ねてくる。

 神霊宮にはまだ魔界桜を植えてなかったからきっと喜ぶだろう。


 羽馬でしばらく行くと神霊宮についた。

 正面玄関には日向と一緒に桜華が迎えに出て来た。



「お帰りなさい。セイ」


「ただいま、桜華」



 政陽は桜華の頬にキスをする。



「桜華。お土産を買って来たよ」


「お土産?」


「ああ。魔界桜の苗だ」


「魔界桜?」


「魔界に咲く桜だよ。これは新種で白い花とピンクの花が同時に咲くらしい」



 政陽は買って来た苗を桜華に渡す。



「素敵! 魔界にも桜があるのね」


「ああ。この苗を植えて面倒をみれば一年後には花が咲くよ」


「本当に? 成長が早いのね」


「魔界の植物は成長が早いからね」


「中庭に植えてもいい?」


「もちろんだ」



 そう言いながら二人は神霊宮の中に入って行く。



「桜華の名前は桜の華と書くだろう。桜華にピッタリな花だと思ってね」


「ありがとう、セイ。桜は人間界にいた頃森の中で見ていたわ。毎年咲くのが待ち遠しかった」



 桜華はカークお爺さんと毎年お花見をしていたのだ。

 まだカークお爺さんのことを思うと心が痛む。

 でもカークお爺さんも今の幸せな桜華の姿を見て安心してくれていると桜華は信じていた。



「じゃあ。さっそく中庭に植えるわ」


「もう植えるのかい?」


「植物は早く土に戻した方がいいもの」


「それもそうか。日向、桜の苗を植える準備を」


「はい。庭師を呼んでまいります」



 二人の後ろを歩いていた日向が庭師を呼びに行く。

 政陽と桜華は庭師が来るまでにどこに植えようか場所を探した。



「この辺に植えれば私たちの部屋から見えるんじゃないかしら」


「う~ん。そうだな。ここでいいか」



 そこに日向が庭師と共に戻って来た。



「ここに植えることにした。桜華を手伝ってやれ」


「はい。承知いたしました」



 桜華は庭師に手伝ってもらいながら苗を植えた。



「これで後はお水をやって世話をするのね」


「桜華様。魔界の植物は丈夫ですのでそんなにお手間をかけなくても自然に育ちます」



 庭師は桜華にそう告げる。



「そうなのね。でも私、できる限り様子を見に来るわ。セイが私のために買って来てくれたのだもの」



 桜華は政陽を見てニコリと笑う。

 どうやら魔界桜を桜華は気に入ったようだ。



(来年はお花見でもするか)



 政陽はそんなことを考えながら桜華と私室に戻った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る