第24話 両想い
虚無が消滅し桜華たちが神霊宮に戻って一ヶ月が経った。
政陽は必ず戻って来ると桜華は信じて待ち続けている。
日向も流星もそれは同じ気持ちだった。
そしてこの一ヶ月で桜華は日向や流星と仲良くなった。
今も日向と流星とお茶を一緒に楽しんでいる。
もちろん桜華も神霊宮の一人として働いてもいるが主に日向の助手のような仕事をさせてもらっている。
日向は神霊宮の全てを管理しているのでちょうど助手が欲しかったと言って桜華に仕事をくれた。
桜華は天使学校で経理の勉強をしていたので神霊宮の経理の手伝いをしている。
「今日も良いお天気ね」
魔界の昼間を示す赤い月の光が窓から入ってきた。
「そうですね。そうだ、桜華様。羽馬の子供が産まれたんです。後で見に行きませんか?」
流星の誘いに桜華は目を輝かせる。
「本当? ぜひ見たいわ」
「ではお茶を飲んだら行きましょう」
流星は穏やかな笑みを見せる。
桜華の生活は充実していた。たった一つ政陽がいないことを除けば。
お茶を飲み終わると流星について神霊宮の横にある羽馬の馬小屋に行くべく神霊宮の正面出入口に差し掛かったところで神霊宮が揺れた。
「これは……まさか」
流星は慌てて表に出る。
桜華も続いて表に出てその人を見る。
そこにいたのは待ち焦がれた政陽が立っていた。
「セイ!!」
桜華は走って政陽の胸に飛び込む。
「ただいま。桜華」
懐かしい声で政陽は桜華の名前を呼んでくれる。
「セイ! もうどこにも行かないで。私にはセイしかいないの」
「桜華……私のことを待っていてくれたのかい?」
「当たり前じゃない。私はセイのことが好きなの。セイが子供を望まないというのならそれでかまわないわ。私はセイといるだけで幸せだから」
桜華は涙を流しながら政陽に訴える。
「子供のことを誰に聞いたんだい?」
「魔王様よ。セイは破壊神エミリオンの血を引く子供を持つわけにはいかないって。だから妻を迎えないって」
「そうか……」
政陽は桜華を抱きしめる。
「この一ヶ月、眠りながらも桜華を抱く夢を見ていた。私も桜華を愛してる」
政陽の言葉に桜華はさらに嬉し涙を流す。
「正式な妻になれなくてもいいわ。恋人としてでいいからセイの側にいさせて」
「桜華。君の決心は分かった。まずは恋人として始めよう。私たちはお互いのことをよく知り合う必要がある」
「本当に? 本当に恋人になってくれるの?」
「ああ。神様は嘘はつかないよ」
政陽は苦笑する。
そして桜華の涙をハンカチで拭いてくれた。
「お帰りなさいませ。政陽様」
二人の様子を見ていた流星が政陽に声をかける。
「ああ。今帰った。留守番ありがとう」
日向も政陽の気配に気づいて神霊宮から飛び出してくる。
「ご無事でなによりです。政陽様」
「日向。負担をかけたな。他の者も元気か?」
「はい。神霊宮の者で欠けた者はいません」
「それは良かった。では桜華。部屋に行こう。これからはずっと二人でいよう」
「セイ!」
桜華はもう一度政陽に抱きつく。
自分の想いが通じたことがこんなに嬉しいことだとは思わなかった。
こうして二人は恋人として一緒に神霊宮に住み始める。
だが二人の運命の輪はまた新たに回り出す。
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