第22話 神の力



 九曜は自分の私室に入った。

 桜華は九曜の私室に入るのをためらって入り口で立ち尽くす。



(結婚前に男女が密室で二人きりになるのは……)



 桜華が部屋に入るべきか悩んでいると九曜が声をかけてきた。



「早く入れ。お前の心配しているようなことはしない。お前に手を出してセイに殺されたくないからな」



 九曜は面白くもないような顔でそう言い切った。

 その言葉を信じて桜華は思い切って九曜の私室に入って扉を閉める。



「ちょっと待っていろ。今結界を張るから」


「結界?」


「他人に部屋の中の出来事を聞かれては困るからな」



 九曜は部屋に結界を張る。



「これで大丈夫だ。お前もくつろぐといい」



 九曜はクッションがたくさん置いてある部屋の一角に座る。

 桜華は九曜と少し距離を置いて座った。



「そんなに警戒しなくても何もしないさ。桜華」



 九曜は桜華の様子を見て楽しんでいるようだ。



「あ、あのそれでセイの様子は?」


「ああ。あいつは今人間界の自分の体のあるところに行っているからな。自分の体に戻りしだい魔界にやってくるだろうよ。それまで虚無の監視だな」



 九曜の前の空間がグニャリと曲がりある光景を映し出す。

 どうやらその光景は神霊の森のようだ。

 神霊の森の一部が黒いモノに覆われている。



「見えるか? あれが虚無だ。神霊の森の一部を食い出したな」


「はい。あれが虚無ですね」


「そうだ。虚無は厄介なモノだ。セイが早く片付けてくれんと私まで自分の体に戻らなくてはならなくなる」



 桜華は政陽が話してくれた三界の神様の話を思い出した。



(そうだわ。魔王様は魔界神ザイオン様だって言ってたっけ?)



 九曜は酒を飲みながら映像を眺めている。



「それで桜華とやら。セイはどこまでお前に話したのだ?」


「どこまでとは?」


「セイや私の本当の正体をお前に話したか?」



 桜華はここで嘘をついても仕方ないと思い正直に話す。



「セイから聞いたのは三界の神様は存在していてセイは人界神レオン様、魔王様は魔界神ザイオン様、天帝様は天界神ラーシャラー様だと聞きました」


「そうか。やはりお前には全てを話していたのだな。桜華、脅すわけではないがそれは一部の者しか知らない機密情報だ。他人には言わないようにな」



 九曜は笑みを湛えているが目が笑っていない。

 桜華は背筋がゾクリとした。



「分かりました。誰にも話しません」


「ならいい」



 九曜は桜華にも飲み物をくれる。



「これは酒ではない。心が落ち着く薬草茶だ。飲むといい」


「ありがとうございます」



 すると目の前の画像が揺れた。



「うん? 飛翔からの通信が入ったか?」



 画像は別の映像に切り替わる。

 その画像に映し出されたのは天帝の飛翔だった。



「て、天帝陛下!?」



 桜華は慌てて頭を下げる。

 天使の桜華にとって天帝の飛翔は雲の上の存在だ。

 体が勝手に反応してしまう。



「九曜。虚無が現れたようだな。ん、誰だ、その女は?」


「この女は政陽の女だ。名は桜華だ」


「その女は天使族にしか見えないが」


「どこで知り合ったかはセイに聞け。だが飛翔よ。貴様やってくれたな。界の狭間の壺を魔界に持ってきたのはどうやら天族の者らしいぞ」



 九曜の非難に飛翔は眉を顰める。



「そのことに関しては私の監督不行き届きだ。その点については詫びる。すまなかった」


「フン。このことは一つ貸しだからな」


「それより政陽は人間界に行ったのか?」


「ああ。もうすぐ魔界に本来の姿で戻るだろう。だから飛翔、お前も天界をちゃんと支えておけよ」


「分かった。三界のバランスが崩れないように最大の力を尽くす」


「まったく。お前のおかげで私も魔界を支えるのに力を使わなければならない。面倒を押し付けやがって」


「そのことは謝っただろう。後は政陽が決着をつけるのを待つか」


「ああ。そうだな」



 天帝飛翔の映像は消えて再び神霊の森の映像に切り替わる。

 桜華は今の九曜と飛翔の会話で疑問に思ったことを九曜に訊いてみた。



「あの、魔王様」


「なんだ?」


「天界を支えるとか魔界を支えるとかってどういう意味ですか?」


「そのままの意味だ。セイは私たちが普段は仮の姿でいることを話したろ?」


「え、ええ」


「セイが人界神レオンの体に戻るとその強大な力で三界は維持するのが難しくなる。それぐらい神の力ってのはこの三界に影響を及ぼすんだ。だからセイが虚無を破壊するまで三界を維持するように力を使うのが私と飛翔の役目だ」


「そんな強大な力なのですか?」


「ああ、そうだ。だからこそ私たちは『神』なんだよ」



 九曜は桜華に分かったかという顔をする。

 強大な神の存在を感じ桜華は身震いしたが政陽の自分に見せてくれた笑顔を思い出す。



(たとえ恐ろしい力を持つ神様でもセイはセイだわ。お願いセイ、皆を助けて)



 桜華は心の中でお祈りをした。 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る