第15話 三魔王子
魔王城では祝いの宴が開かれていた。
今日は魔王が王位に就いたとされる日だ。
魔王を始め有力な魔王子が顔を合わせる数少ない機会の一つである。
「魔王様、おめでとうございます。私からの細やかな贈り物でございます」
そう挨拶したのは有力な魔王子の一人である災破だ。
黒い髪に黒い瞳。
王位を狙う魔王子の一人だが魔王の九曜に対しては特に逆らうこともない。
だが裏では有力な魔王子が誕生することを阻止していると言われている。
自分の敵になりそうな魔王子が誕生すると子供の内に殺すのだ。
災破は魔界でも珍しいお酒を魔王に献上した。
「これは随分と希少な酒だな。ありがたく頂くことにしよう」
九曜は酒好きなので災破の贈り物をありがたく貰った。
「いえいえ魔王様が気に入っていただければ光栄です」
災破は一礼して祝宴に設けられている自分の席へと戻る。
「やれやれ魔王様に取り入るのが上手ですなあ。災破殿」
災破にそう声をかけて来たのはこちらも有力な魔王子の一人である雷牙だ。
兄弟とはいえ魔王子同士は肉親の情など持たないので他人行儀な口調で話すのが普通である。
それは父親の九曜に対しても同じ。基本的に九曜のことは「魔王」と呼ぶこととされていた。
「取り入るとは言葉が悪いですな、雷牙殿。私は純粋に魔王様の即位祝いにと贈っただけですよ」
災破は雷牙を睨みながら答える。
「では私も魔王様にお祝いの品をお渡しします」
雷牙はそう言って魔王の前に進み出た。
「魔王様。今回は魔王様の御用に用いられるように『黒ドラゴン』の幼獣を贈らせていただきます」
「ほう、黒ドラゴンとは珍しいな。分かった貰い受けよう」
九曜は普段移動する時にドラゴンを使う。
その様子を災破は面白くない顔で見ている。
雷牙は九曜の反応に満足して自分の席に戻った。
「まあまあ、お二人ともそんなに対抗意識を出されては場がしらけてしまいますよ」
災破と雷牙の二人を恐れずに声をかけるのは有力な魔王子の一人氷夢だった。
「氷夢殿。氷夢殿は何か魔王様に贈られたのか?」
災破が尋ねると氷夢が笑みを浮かべる。
「私からは何も魔王様に贈る物はありません。魔王様に普段からいろいろ贈り物をさせていただいておりますので」
「ハッ、価値のある贈り物を思いつかなかっただけであろうが」
雷牙は氷夢のことを鼻で笑う。
「ただし、お二人にある情報をお話させていただきたく声をかけたまで」
「情報だと?」
災破は怪訝そうに氷夢を見る。
「地方出身の魔王子が何やら画策しているとの情報ですよ。自分の王位継承順位が一番とかなんとか喚いてるらしいとのこと」
災破も雷牙も途端に不機嫌になる。
ただでさえ魔王の子供は多い。
魔力はピンからキリまであるが今ここに集っている三魔王子は力が同じぐらいのためお互いに牽制し合っているのだ。
これ以上ライバルは増やしたくないと思うのは三人の中で一致している。
「フンッ、地方出身者の魔王子ごときに後れを取る私ではない」
雷牙は酒を飲み干し氷夢に答える。
「フフッ、これは面白い。その地方出身の魔王子とやらのお手並み拝見といくか」
災破も悠然と酒を飲む。
「まあ、これまでもこんな感じの時はありましたからねえ」
氷夢は自分の席に戻った。
九曜は三魔王子の話を聞いていたが無視した。
九曜にとって自分の子供と言っても『神』である自分とは違う生き物でしかない。
よく政陽には怒られるが九曜は子供同士での争いを見るのが好きなのだ。
「今日は大公は来ていないのか」
九曜が側近に訊く。
「はい。今日は欠席されるとの文が届いています。それとお耳に入れたいことがありまして」
側近は声を潜めながら九曜に耳打ちする。
「なんだと? それは本当か?」
「はい。神霊宮で働く者たちが噂していたとのことですが」
「大公に女ができたなど面白い。大公とその女を呼び出せ」
「承知いたしました」
九曜はこれはまた楽しい展開になりそうだと目を細めた。
暇つぶしのネタはいくつあってもいい。
永遠に近い時を生きる九曜の最大の敵は「暇」であるのだから。
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