第6話 二人の出会い



 政陽は側近の流星りゅうせいを連れて羽馬はねうまに乗って魔王城から自分の住む神霊宮に向かって飛んでいた。

 自分の羽を使った方が早く飛べるのだが羽馬を好んでいる政陽は通常は羽馬で移動する。


 それに政陽が本気で飛んでいたら側近の流星が追いつけない。

 流星は剣の腕前や魔力の強さで選んだ側近だ。



「それで魔王様の用事って何だったんですか?」



 流星が政陽の横に羽馬を並べて訊いてくる。



「ああ、ちょっと厄介な事件が起きてな」



 政陽は言葉を濁す。

 主人の態度で流星はこれ以上聞いてはいけないと判断する。


 すると「きゃああああ!!」と悲鳴が下から聞こえた。



「なんだ?」



 政陽は羽馬の高度を下げる。流星もそれに続いた。

 降下すると沼地が見えた。


 ムカデのような魔物が一人の女性を襲おうとしている。

 政陽は自分の魔力を込めた光玉を飛ばす。

 光玉はムカデのような魔物に命中して魔物は全身を炎で包まれて絶命した。


 政陽は羽馬で大地に降りると襲われそうになった女性を見てハッとなった。

 女性は背中に白い羽が生えていた。天族の印だ。


 政陽が近付くと座り込んでいた女性が顔をあげる。

 そして立ち上がり政陽に抱きついた。



「パパ!」


「はあ!?」



 女性は見たところまだ若い。

 成人して間もない天族だろう。



「パパって俺のことか?」



 政陽は女性を体から引き剥がし女性に訊く。



「うん。カークお爺さんがいつかパパが迎えに来てくれるって言ってたもん。パパ……眠くなっちゃった……早く桜華と一緒に……おうちに帰ろう」



 そう言うと桜華という娘は意識を失った。

 倒れる寸前で政陽が桜華の体を抱きしめて倒れないように支える。



「桜華というのか。どうしてこんなところに天族が……?」


「大公様。問題はそこではありません。彼女は大公様のことを「パパ」と呼びましたがお心当たりはありますか?」



 流星の冷たい視線を浴びる。



「冗談じゃない。俺は隠し子なんていないし、この子は天族だぞ」



 政陽は慌てて否定した。



「外見が天族でも大公様の場合どんな姿の子供ができても不思議はないですがね」


「…っ!」



 確かに政陽は天界神の力と魔界神の力の両方が使える。

 それは政陽が特別な神である人界神レオンだからだ。


 自分の側近の流星ともう一人の側近の日向ひゅうがには自分の本当の正体のことを話している。

 最初は驚かれたが二人は秘密を守ると誓ってくれた。

 今はこの二人は政陽にとって大事な部下たちだ。



「とにかく神霊しんれい宮に戻る」


「その女も連れてですか?」


「当たり前だ。こんなところに天族がいたら魔物に襲ってくださいと言われているようなもんだ。とりあえず白い羽は目立つから俺の術で消しておくか」



 そう言うと政陽は桜華に術をかける。

 白い羽は姿を消す。 

 そして政陽は羽馬に桜華を乗せて自分も羽馬に跨る。


 桜華が落ちないように羽馬はゆっくり飛び立った。

 桜華は無意識に政陽にしがみつく。


 その様子を見ながら政陽はこれからのことを考えて少し憂鬱になる。

 神霊宮にはもう一人の側近の日向がいる。


 彼の承諾を得るのにまたひと悶着あるだろう。

 羽馬は徐々に高度を上げて神霊宮に向かって飛んでいた。





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