第4話 魔王の九曜



「アンっ、そんなところ触っちゃ……いや……アン!」


「君の体はそうは言っていないよ。体は正直だね」



 男は女の体を堪能するように触る。

 ここは魔王が住む魔王城の奥宮にある庭園の東屋である。



「魔王様。大公様がお着きになりました」



 魔王の側近の一人がいちゃついてる男に告げる。



「ああ、セイがきたのか。分かった、ここに大公を通せ。その後は私がいいと言うまで誰もここに近付くな」


「承知いたしました」



 側近が下がっていくと男は、いや魔王は今までいちゃついてた女にも下がるように言う。



「そんな魔王様、私は魔王様と一緒に居たいわ」



 女が不満を訴えると魔王が女を睨む。



「女。私の機嫌のいいうちに下がったほうが身のためだぞ」


「ヒッ! 申し訳ありませんでした」



 女は素早く服を整えて下がる。

 そして女と入れ違いで政陽せいようがやって来た。



「なんだ、九曜くようはまた女と一緒だったのか」


「妻を一人も迎えたことのないお前には言われたくないな、セイ」



 魔王の名前を呼び捨てにしても九曜は相手が政陽だと怒らない。

 九曜は政陽の正体を知っているし政陽も九曜の正体を知っているからお互い自分と同等の力を有する者だと認識しているからだ。


 天帝の飛翔もそうだが九曜も魔王として魔界を治めているが一度も代替わりをしていない。

 そして魔界の片隅で暮らしている大公政陽も昔から九曜の相談役という地位で代替わりはしていない。


 それは天帝飛翔、魔王九曜、大公政陽が特別な存在だからだ。


 三人はそれぞれが古の神話が語る神である。

 天界神ラーシャラー、魔界神ザイオン、人界神レオン。


 だがこの三人は自分が神であることは隠している。


 古の神話が語るように創造神オルシオンが破壊神エミリオンをその体の中に封じ三界を創造神オルシオンが生み出した三人の神に治めさせたのは本当にあった話だ。

 だが古の神話には書かれていない部分も多くある。


 まず創造神オルシオンの血肉を使って創造神オルシオンが造り出したのが天界神ラーシャラーと魔界神ザイオンである。

 そして人界神レオンは創造神オルシオンと破壊神エミリオンの間に生まれた神だということだ。

 天界神ラーシャラーと魔界神ザイオンの二人と人界神レオンは根本的に産まれ方が違うのだ。


 でも創造神オルシオンの言葉に従いそれぞれの世界を治めるようにはなったが神であることは伏せて天界神ラーシャラーは天帝飛翔に魔界神ザイオンは魔王九曜に人界神レオンは大公政陽として治めた。


 レオンは早々に人間界は人間たちが自分たちで治めればいいと人間の自主性に任せた。

 もし人間たちが自分たちで滅びの道を行くなら止めはしない。


 天界と魔界はそう簡単に天族や魔族に丸投げにはできなかった。

 なぜなら人間と違い天族も魔族も力に溢れる一族だったからだ。


 そこで天帝と魔王にそれぞれの二人の神はなり天界と魔界を治めることにした。

 だが天帝と魔王が神だと知らないそれぞれの一族は天帝と魔王の暗殺を狙ったり次期王座を狙って激しい攻防を繰り広げているのが現状である。



「また子供でも増やして争いの種にする気か?」


「まあ、待て。今東屋に結界を張る。誰が聞いてるか分からんからな」



 そういうと九曜は自分の力で結界を張る。

 政陽は東屋の椅子に腰をかける。



「これでいい。誰にも聴こえないないはずだ。子供と言っても私たちのように純粋な神ではないから問題ないだろう?」



 九曜の言葉に政陽は頭を抱えた。



「そういう問題じゃない。次から次へと子供増やして後継者争いを面白がっているところが問題なんだ」


「別に誰が後継者だってかまわんだろ。私が代替わりすることはないんだから」


「はあ……その言葉を三魔王子に言ってあげれば少しは争いが減るんじゃないか?」



 政陽の言った三魔王子とは九曜の子供の中で特に力が強く「自分こそが次の魔王に相応しい」と公言し何かと争いになる三人の魔王子のことだ。


 名前は「災破さいは」「雷牙らいが」「氷夢ひゆめ」だ。

 九曜はこの三人が争えば争うほど面白がって高みの見物している。


 その三人にお前たちが生涯かかっても魔王の座は巡ってこないと政陽は何度言いかけただろう。

 もちろんそんなことは身分を隠している九曜と自分にも影響が大きいから絶対に言わないが。



「長すぎる人生には刺激がないとやっておれん。子供同士の争いは私の暇つぶしだ」



 九曜は平然とそんなことを言う。



「それよりセイ。お前こそ妻を娶ってみたらどうだ? 妻がうっとうしいなら側女でも作って楽しんでみたらいいじゃないか?」


「俺は妻に迎えるなら一人でかまわんし子供もいらない」


「そうか、でもそれでは溜まる一方じゃないか?」


「大きなお世話だ。そんなくだらないことで呼び出したのか?」



 政陽に言われて九曜は政陽を呼び出した用事を思い出した。



「そうだったな。実は「界の狭間」の壺の一つが紛失しているとの情報が飛翔から来てな。あいつの失敗を笑ってやったのだが「界の狭間」の壺は無くなったのならお前にも伝えておいた方がいいと思ったんだ」


「飛翔は何やってるんだ。界の狭間の壺の危険性を知ってるだろうに」



 政陽が信じられないという顔をする。


 それは界の狭間の壺は中に「虚無」が閉じ込められているからだ。

 虚無はこの世のモノを何でも飲み込んで破壊してしまうモノだ。破壊神エミリオンの力の破片とも言える。


 界の狭間の壺が虚無を閉じ込めていられるのは壺を作ったのが政陽だからだ。

 人界神レオンはこの世で唯一虚無に対抗できる力を持つ。


 それはレオンが破壊神エミリオンの血を引いてる唯一の神だからだ。

 天界神ラーシャラーと魔界神ザイオンはオルシオンの血肉だけで作られたために破壊神エミリオンの力は制御できない

 この三界で生きる物にとって「虚無」ほど恐ろしいモノはない。



「あいつも必死に探してはいるらしいがまだ見つからないと言っていた。どうするセイ?」


「今のところは虚無の気配は感じない。壺の蓋を開けてないのだろう。魔界も十分注意した方がいいぞ」


「うむ。虚無が巨大化する前に壺を取り返さないとだな。だがどうやって壺を探したらいいか検討せねばならない」


「確かに界の狭間の壺は存在自体が秘密だからな。蓋を開けて虚無が出てきたらその気配は三界のどこにいても私には分かる」



 政陽がそう言うと九曜は僅かに笑う。



「でも壺の蓋を開けてしまっては大事だろう?」


「そうだな。天界は飛翔が探すだろうから魔界と人間界にはそれぞれ俺たちが注意せねばならない」


「まったく面倒なこと起こしやがって」



 九曜は嫌そうな顔をする。

 元々飛翔と九曜は仲が悪い。



「仕方ないさ。俺は一度自宅に帰って虚無の気配が追えないか試してみる」



 政陽はそう言って立ち上がる。



「分かった。また情報が入ったら私からも連絡する」



 九曜は東屋を出て行く政陽に声をかけた。

 政陽の姿が消えると九曜はやれやれと思いながら自分も東屋を後にした。




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