第3話 秘密の任務



 桜華は光安の執務室に呼び出された。

 天使学校を卒業後、光安のもとで財務経理担当班に配属されたのが一週間前のこと。



 この一週間自分なりに努力して必死で経理の仕事を覚えたつもりだが何か不手際があったのだろうか。



 桜華は不安を覚えながらも光安の執務室の扉を軽くノックした。



「誰だ?」


「桜華です。光安様」



 桜華はハッキリと大きな声で答える。



「入れ」



 入室の許可を与えられて執務室に入ると光安は執務室にあるソファに座っていた。



「失礼します。光安様」


「忙しいところ呼び出してしまって悪かったな。まあ、こちらに来て座りなさい」



 光安が手招きしたので桜華は光安と向かい合う位置に腰を降ろす。



「経理事務の仕事は慣れてきたか?」


「はい。まだまだ覚えることが多いですがやりがいのある仕事だと思っています」


「それは良いことだ。だが今日呼び出したのは桜華にある仕事を依頼したいと思ってね」


「仕事の依頼ですか? 私にできることでしたら何でもやりますが」



 桜華は意気揚々と答える。



「これから言う仕事の内容は絶対に他言無用だ。約束できるかい?」



 光安の問いに桜華は強く頷く。



「はい。光安様が誰にも言うなと言うなら絶対に話しません」


「よし、桜華はやっぱりいい子だな」



 光安は目を細める。



「実はね。桜華に人間界に行ってあるモノを探してきて欲しいんだ」


「人間界ですか?」


「そう、桜華は人間界に居たことがあっただろう? その桜華が住んでいた森の中のどこかに人界神レオンの体があるはずなんだ」


「人界神ってあの古の神話に出てくる神様ですか!?」



 桜華は驚いた。

 天使学校で習ったこの天界、魔界、人間界の始まりに出てくる古の神話の話は有名だったけれどその神様が現在になっても生きてるとは思わなかった。

 いや実在するとも思ってなかったのだ。



「そうだ。人界神レオンの体は君を保護した森の中のどこかにある。だが私たち天翔族は滅多に人間界に降りることはない。君を保護した時は人界神レオンの調査のためで偶然だったんだ」


「人界神レオンの体を見つけてどうするんですか?」


「その体を持って帰ってきてほしい。いいか、この仕事は天族にとっても私にとっても大事な仕事なのだ。絶対に人に話してはならない」


「仕事の内容は分かりましたが私にできるでしょうか?」



 桜華は天使学校を優秀な成績で卒業している。

 だが光安たちに保護されて以来人間界には行ってないし、光安が何回も「他言無用の大事な任務」と言うような仕事を果たして自分はできるのだろうか。



「心配しなくていいよ。桜華ならきっとできる。自分を信じなさい」



 光安の優しい声を聞き桜華は不安感が少し軽くなった。

 信頼してくれているから今回の任務を桜華に与えてくれたのかもしれない。

 光安の役に立てるならこれほど喜ばしいことはない。



「分かりました。私がいない間の経理の仕事は誰かやってくれるんでしょうか?」


「ああ、その点は心配しなくてもいい。ちゃんと経理担当部署には私から連絡しておくから。それに任務終了後はまたそこで働けるようにしておく」


「はい。ありがとうございます」



 桜華は内心ホッとした。



「それでいつ出発すればいいのでしょうか」


「できれば早い方がいい。明日出発して欲しい」


「明日ですか!?」


「そうだ。ことは一刻を争うんだよ」


「分かりました。準備のためこれから自宅に帰ってよろしいでしょうか?」


「かまわない。桜華の上司には私から話しをしておく」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」



 桜華は光安に一礼すると部屋を出て行く。

 光安は密かに笑みを浮かべた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る