第2話 2/4

"焼きたてのベーコンマジ美味し"


 夜間、渡嘉敷からラインが次々と送られてきた。   

どうやら渡嘉敷とカルロスは今夜、富士宮のキャンプ場で1泊していくらしい。てっきり夜間登って、早朝の景色を拝むのかと思っていたが俺の勘違いだったようだ。

 先ほど、テント内でカルロスと遊戯王カードをして遊んでいる画像が送られてきた。手元にあるおやつカルパスを見るに、おおかたカルパスを賭けてデュエルが行われているのだろう。

 それはそうと俺は当然ながら富士山に登ったこのなどない。俺にとって富士山とは、ここ静岡から見えるその白い巨峰を見て満足する程度の存在のものでしかなかった。ふと興味が湧いたので、富士山登頂について調べてみた。


 富士山登頂に向けてのルートは大きくわけて4つある。その中で初心者ルートとされているのが、吉田ルートと富士宮ルートで、渡嘉敷達は後者を選んだわけだ。富士宮ルートは五合目からスタートでき、他のルートよりも距離が短いらしい。

 てっきり何泊もして登頂するものかと思っていたが、日帰りで下山できてしまうようだ。彼らが山小屋に泊まるのかどうかはさて置き、そう長きに渡る計画とはならないらしい。

 

"明日早いけん寝るわ、おやすみ"


 カルロスの寝顔写真と一緒にメッセージが送られてきた。俺も「おやすみ」と返して早々ベッドに入ることにした。明日はサッカー部の午前練があるのだ。


 

 

 サッカーの練習を終え、俺は部室でスマホを開いた。朝はバタバタしていて、まともにスマホに目をやる時間がなかったのだ。

「うおっ」

「どうした、河合?」

「いや、何でもない」

 思わず言葉がでてしまった。スマホに、渡嘉敷からものすごい量のメッセージが届いていたのだ。


"富士山マイカー規制しよって入れへんわ"

"カルロスが運転席でFuckFuck言いよるわ"


 その後の文面を辿ってわかったが、富士山開放期間はマイカー規制というものを行っており、バスでないと入り口まで向かうことができないらしい。それくらい調べておけよと心でツッコむ。


"バスなう。富士山ガチ勢めっちゃ乗ってるんやけど"

"カルロスがバス酔いしたわぁ。でもカルパスあげたらカルロス元気になったで!"


 バス酔いはカスパスで治らんだろ。ていうか、さっきからカルロスカルパスの文字を見過ぎてこっちが気持ち悪くなってきた。


"もうすぐ八合目や。青木ヶ原はどのへんやろなぁ"


 そのメッセージが最後であった。メッセージとともに山中の写真が送られていた。それを見ると、本当に渡嘉敷は富士山を登っているのだなぁと感じさせられる。そこでふと、俺は小学生時代の渡嘉敷エピソードを1つ思い出した。


「河合、ぼく山の中で修行して来ようと思うとるけん」

「……意味わかんないんだけど」

 渡嘉敷がこんなことを言い出したのは5年生の時だったか。渡嘉敷は宣言通り、夏休み期間中ずっと浜松市北部にある三岳山で過ごしたのだという。キャンプ場もあるが、とても1ヶ月過ごせるような場所ではない。親が代わる代わる付き添ったらしいが、とても苦労しただろうなと察したものだ。

 ちなみに渡嘉敷はきちんと夏休みの宿題を全部終えていた。夏休みの修行の成果があったのかは今もわからない。ただ、1ヶ月以上も渡嘉敷に会えなくて当時とても寂しい思いをしたのは確かだ。懐かしい、でも苦い想い出だ。


"楽しんでこいよ。遭難滑落したらぶん殴ってやる"


 俺はそうメッセージを返した。



「河合、これから家寄ってかね?」

 声をかけてくれたのは同級生の清水だ。

「おっ、いいじゃん」

「ウイイレしようぜ。リベンジさせろよ」

「いやいや、ぜってー負けねえし」

 俺はスマホをしまって鞄に手をかけた。渡嘉敷は今回も有言実行するのだろうか。清水と喋っている中でもそれがずっと頭から離れなかった。

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