ジーニアスラブ

止ヒ糸ケン(むらさきけん)

第1話 観察日誌開始


成功した。長きにわたって続けていた実験の集大成が、この体の中に詰まっている。今まで参考にした資料も、もう必要ない。一番順調だった15、73号も処分に回そうか。

未だ水槽の中に保管されている人間は酸素ボンベに繋がれて呼吸音が聞こえる。いや、人間ではあるが造りものの人間。113号だ。この生命は人類の無謀な計画のためだけに存在している。この計画がなければ産まれることすらなかったであろう。

「心臓、安定。呼吸機能、安定。表皮機能、乾燥の可能性あり。精神機能、不明。…人の精神は生活環境によって決まる。子供を育てる上で気をつけないといけないことは、環境を整え、正しい知識と教えをすることができる人間。正しい同類が必要。だが113号はこの場合、同類がいないということになる。これから先、また113号に続く存在を創ることになろう。」カガミの声が広い研究室で木霊している。

電子モニタ。必要最小限の光。無数ともいえる数の書籍。日記。この場所で彼は研究し、暮らしている。それも今から終わる。

ピッ「ロクオン」「これより、人体創造人間113号の生活記録を行う。」

水槽を機械により水平に倒し、113号を寝そべらせ、液体を抜いてゆく。ゆっくり慎重に抜くことにより、体への負荷を少しでも慣れさせるために。「脳を覚醒状態にさせる。開始」

ピパッ

…ゆっくり、よく見ないとわからないくらい遅く、瞼を開けた。113号の素体は女性。彼女の今の思考はどのようなものだろうか。この話だけで論文が埋め尽くされるほどの文が書けそうだが、今は113号の安定を祈るのみ。

「…」

「おはよう113号。今日は3071年10月31日。ちょうどハロウィンの年だ。113号だと呼びずらいので、今日から君の名前はフォールウィンと名づける。フォールは英語で秋、または落ちるという。」

「…?」全く理解できないという顔と共に首を傾げる。人工的とは言え、人らしい。

いや、それが目的でもあるのだからそうでなければ困る。

「やはりそうか、分かってはいたが…」日本語が分からないか…日本人の知識をいれたつもりだったが、それは無駄に終わったか。

まぁ良い、教えればいいのだから。

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