07 カウンセリング的トレーニング

 結局弾丸娘の那乃ちゃんがその日のうちに両親にネジ込んで、大人同士でも話し合った結果、土日1時間ずつで格闘技もどきを教えるということになった。


 俺の提案で、家の庭先でオープンな感じでやるということにしたので雅臣さんたちも安心できるだろう。


 お礼は子どものためだから、ということで受け取らないことにしたが、最終的にはなにかいただくことになりそうだ。


 ともあれ那乃ちゃんの強い要望もあり、いきなり今日から練習開始となった。


 ジャージに着替えてきた那乃ちゃんが、いつもと違う真面目な顔で庭に立っている。なおウチの庭はもとが農家だったからかかなり広く、一般の家ではあまり見ない土の庭がある。塀や納屋もあって道路からは見えづらく、運動をするには適している場所である。


「おじさんよろしくお願いします!」


 ビシッという感じで礼をする姿には、やはりコミュニケーション強者的オーラを感じてしまう。


「じゃあまずは準備運動からね。準備運動は足先から上半身に向けて、末端から身体の中心に向けてやってくよ」


「はい!」


 などと適当な指導をしつつ、とりあえず準備運動から始めて、キツめの柔軟運動を行い、軽く受けの練習をした後は、パンチやキックの出し方を教えて、それぞれ反復練習をした。


 これが本当の格闘技教室とかならまず武道的な心得から始めて、受けの技術を十分やってからようやく攻撃の練習、なんてことになるのだろうが、那乃ちゃんに関してはどちらかというとカウンセリング的要素が強いので、自分に自信が持てるようになる練習を優先した。


「突きは指の付け根の部分を当てるんだ。突くときは脇が開かないように。そうそう、腰は常に落として」


「はい!」


「蹴りは膝から出すことを意識して。この時も腰は浮かせないこと。いいね、上半身が安定してる」


「そうかな?」


 という感じで褒めるのを忘れないようにして、那乃ちゃんの気持ちを乗せるよう意識してやっていく。


 しかし見ていて驚いたのは那乃ちゃんのセンスの良さであった。素人がパンチやキックをしても最初のうちはキレイな技にならないものだが、彼女は10回も繰り返すと動画で見たような玄人らしい動きになる。


 もしかしたらこの間の『レベルアップ』も関係しているのかもしれないが、元の運動神経がもいいのかもしれない。


「そういえば那乃ちゃんはスポーツは得意なの?」


「走ったり跳んだりするのはそこそこ得意かな。球技も苦手じゃないけどあんまり好きじゃない。格闘技のほうが好きかも。身体がいい感じで動く気がする」


「確かに向いてる気がするよ」


「ホント? じゃあ頑張ろ!」


 最後は俺の手のひらに軽くパンチをさせたりしたが、俺はともかく那乃ちゃんが怪我をしそうな気がするので後でパンチングミットでも買っておこう。


「そういえばおじさん知ってる? あの変な野生動物の動画を他に撮った人がいて、ネットに上げてるみたいよ」


「それは知らなかった。話題になってるのかな?」


「海外の動画なんだけど、そこまでは話題になってないみたい。AIで作った映像だとか言われてたかな」


「ああそうか、今はそう思われちゃうのか」


 科学技術、情報技術の進歩はすさまじい。俺が生まれたころなんて携帯電話すらなかったんだが。


 まあそれはともかく、海外でもあのサーベルタイガーもどきが出現しているなら、なおさら隠し通せるものでもなくなりそうだ。


「あ、それと友達が、この間恐竜みたいな生き物を見たって言ってたんだよね。それも最近の野生動物事件と関係があるんじゃないかって」


「へえ。それはどこで見たのかな?」


「ん~、S県の、ナントカの滝を見に行った時、車の中から見たって言ってた。滝の近くだって言ってたかな」


「遠いからこっちは大丈夫そうだね。しかし恐竜はちょっと見てみたいな」


「ね。でも恐竜相手だと人間じゃ勝てないよね」


「逃げるしかないね。近寄らないのが一番だけど」


 と答えつつ、俺はさっそく今日の午後近寄る心づもりを固めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る