第3話 叫べ、枯れ果て潰すまで


あれから何度も拳を使い込みまくったからか、角はボロボロに破け常に赤く、薄汚いままだ。

だがそれでも一発で殺せる程度かと言われると足元にすら及ばない。

まだ殴れる。痛みがきているうちはまだ。

アルキよ。お前はいつも逃げてばかりの人生だったな。

だがもうその人生からもおさらばだ。

今度はお前が追いかける番になれ。死神の如く長く執拗にねちっこく追いかけて追いかける。


動かない。喋ることはできる、だが体が拒否している。筋肉痛もここまで来ると大怪我だな。

さっぱりわからない。

「ツバキ、殺す…殺す…」

逃げるな。

そう思うたびに俺の足、腕、拳は少しだけ動き出す。逃げるな。追いかけろ。鎌で首を取れ。

己が求めた終着点をぶち壊して再生しろ。

「んぁ?はぁ?お前、がはははは!」

ツバキ……殺す、今ここで何もかも残らせない。

「だっせぇ!お前そんなことしてたのかよ!モテるためか?それとも俺に勝つためか?ムダムダ勝てねえよ「勝つためじゃねぇ。」

鉛を含んだ体をやっとの如くで足を前へ、前へ、進めてようやく睨み合えた。

「一発殴らせてやるよ……どうせ無理だがな」

すっ…



         ドス!

「がばはぁ!」  「ツバキ、お前は死ね。さっさと、この世から…!もう二度と!息ができなぁように!!死ね‼︎」

ドス!ドス!

「舐めるなぁ!」ドゥゴォ!

「けはぁ!」


互角だと思った己を妬むべきであった。一瞬でも隙を作った相手は刺さるまで刺せば不利相性でもある程度差を埋めれる。

だがそれでも埋まらない歴然の差。

全く持って無駄。ガキのお遊びでしかない。

そんなことをしてやつに勝てると思ったのか?

ツバキに、最強に、最弱の甘いお前が、



        勝てるとでも?


静寂が嫌いだ。なにも聞こえない。なにも感じ取れない。あるのは無という哀しく、寂しさを食べた悪夢。耳障りなくらいがちょうどいいと考えていた時期もあった。だが蓋を開けてみれば混沌の中に好きなものを全て注ぎ込んだかのようなゲテモノ。さも美味しいであろうと感じる好きなものは、相性がある。インスタントラーメンが好きでドーナツが好き。では二つ同時に食べれば美味しいのか?そんなことはありえない。甘いもの、濃ゆくて味気が強いもの。食事としての楽しみ方、種類がまるで違う。そんなコンボはゴミだ。つまり耳障りなのはゴミだ。

だがなにがいけない?ツバキの野郎は混沌の中に秩序としての暴力がある。

俺にはなにがある?弱い。その柱が立っているだけ。それは簡単に崩れ落ち、いくらでも代わりができる。情け無い、心すらも俺はあいつに負けていたのか。

なら逃げるな。ここでへばっていたら俺は本当の負け犬へと成り下がる。

話術が上手いわけでもなく勉強ができるわけでもなくおバカで面白いわけでもなく特筆した才能があるわけでもなく体力があるわけでもなく力があるわけでもなく富があるわけでもなく名声があるわけでもなく信頼があるわけでもないこの俺が成り下がる条件は超大量にある。

だがあいつは?ツバキはどうだ?

話術はない勉強はそこそこバカではない才能もない体力は特段ある名声は言わずもがな信頼はボスだからある。なんだこの土台の差?

「俺は…なんで…生きている…?」逃げるな

「俺は、なんで……殺す…?」逃げるな

「俺は…なんで」逃げるな

「俺は」逃げるな

「俺」にげるな

「にげるな…」


         逃げるな

     この世界で一番醜い男よ


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