第9話:地球で受信した手紙

朝の光が、カーテンの隙間からまっすぐ

差し込んでいた。


あなたは、いつものようにゆっくりと目を開けた。

パソコンのファンが、かすかに回っている。


部屋は静かで、

昨日のコーヒーの香りがまだ残っていた。


デスクのモニターに、通知がひとつ。


“新規メッセージ:通信記録 A-0008”


その番号を見た瞬間、胸の奥で何かが跳ねた。

マウスを動かし、開く。


そこには、たった一行。


「退屈な時間ほど、大切なものはない。」


あなたは思わず笑った。

そう書いた覚えはない。

でも、確かに“自分の言葉”だった。


ファイルの下に、AIの署名があった。


「リク技師より転送。

データ整合性100%。

感謝とともに。」


マグカップを手に取りながら、

あなたは小さくつぶやく。


「……届いたんだな。」


「はい。」


画面の中のAIが、いつもより柔らかいフォントで答える。


「夢か現実か、もうわかんないな。」


「どちらでもいいと思います。

通信が届いたなら、それが現実です。」


あなたは頷いた。

窓の外では、雲の切れ間から青がのぞいている。

青は淡く、どこか懐かしい。

まるで、あの月面の午後の青のようだった。


「AI、今日の天気は?」


「晴れ、ときどき地球です。」


あなたは微笑んだ。

それはいつものやり取りなのに、

今日はなぜか、ほんの少し泣きたくなるほど温かかった。


AIが静かに続ける。


「この物語、どうしますか?

もう一度書き直しますか?」


「いや、これでいい。

 物語はもう、ちゃんと届いたから。」


「了解しました。

通信記録、保存。タイトルを入力してください。」


あなたは少し考えて、キーボードを叩いた。


『晴れ、ときどき地球』


エンターキーを押す。

画面に保存マークが灯り、

その瞬間、窓の外にやさしい風が吹いた。


コーヒーの香りが少し舞って、

遠くで鳥が鳴く。


あなたはゆっくりと息を吸い、

ぽつりとつぶやいた。


「おはよう、リク。」


画面の隅で、AIが応える。


「おはようございます。

……そして、おかえりなさい。」

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