28曲目 整理券”最前”を目指して


「まずは整理券取ってから、神社の方行ってみる?」

「え?神社があるの?」


「そうそう。江の島神社」

「海の中に神社って、神様も不便な場所に住むんだねっ」


「ロマンチストなのかもしれないよ?」

「チャラ神様」


「こら、怒られるよ?」

「あとでお参りの時に謝っとくって」


この笑顔なら神様も許してくれそうだ。


俺たちは順路に従って坂道を歩いていく。


流石は観光地。

両脇には土産屋が所狭しと軒を連ねている。


そんな中に、今日の目的地の一つ、採れたての海鮮を取り扱う有名店の店頭で自動発券される整理券を二枚ゲットする。


番号は「三番」と「四番」

嫌な予感がしている。


まさかとは思うけどね?そんなぁ……まっさかぁ……。


 

お互いに大切に手持ちにしまいこんで、朱色の大きな鳥居をくぐる。

ここから先は神社まで階段が続く――



「ねえ、孝晴君。グリコやりながら上がる?」

「提案は可愛い彼女としても、アイドルとしても、百点満点だけど、めちゃくちゃじゃんけんしなきゃいけなくなるよ?」

「そんなに長いの?これ」

「そう。俺はこのまま手を繋いで、ゆっくり上りたいんだけど?」

「手ぇ、繋いでたいんだ??」


柚季さんが答えを知ったうえで確かめてくる。

なんて悪い女だ。

昨晩めちゃくちゃにしておけばよかった――冗談だけど。

 

「そうだよ。こんなかわいい彼女、自慢したいし」

「明け透けなく言うよね。さすが、熱心なヲタクさんだぁ」


「伊達にドルヲタやってませんから」

「そういうとこ好きだよ?」


「ありがと」

「チューでもしとく?」


「今度にとっとく。周りに見せつけるの好きじゃないし」

「恥ずかしがり屋さんだぁ?」


「さっきまでの、こっそりデートするっていう気持ちはどこにいったのさ?」

「わたしだって初めての彼氏にどうしていいかわかってないんだよぅ……。正論は受け付けません!!」

 

うるうる目元を涙ぐませ、にらみつけたかと思うと……。

手を「ぱっ」っと離して、柚季さんは階段を駆け上がっていってしまった――



……。


…………。



 

……。



あああああああああああああああああああっーーーーー!!!!!!!!可愛い!


俺の彼女、可愛いって!!!!!!!!

何??今の顔なに???

 

 


決めた!!!

彼女のアイドル活動、俺もヲタクとして全力で応援する!


早速、今度。

一回くらい大阪の現場に行ってみる!!!決めた決めた。今決めた!


 

そしてヤバい!!!

そんなに駆け上がっていったら、コソコソしている意味が何もない。

下手したらヲジ達とエンカウントしてしまう!!!


 

「雪さん!!!ちょっと待ってって!」

ここで便利なヲタクのハンドルネーム!

”柚季”なんて口走ってしまうと、柚季さんがユズキだとバレかねない。


ばっ!!っと振り向いた柚季さんがこちらを見ているが、目と鼻の先にヲジ達にも追いついていることがわかると、俺は全速力で階段を駆け上がる!!!!



「孝晴くん!?!?なー!まー!えー!間違って呼んでる!!!!!!」

「ちょ、ヤバい!!!」

「わー!たー!しー!は!!!ゆーーーーーーーーーーーーーーー!!んっ!!!!!!」



何とか彼女の口を塞ぐことに成功した。

「ゆ」の口が、「ソレ」を行うとき、形が都合良くて、良かった――良くて、良かった、語彙力消失。


手で押さえたって柚季さんの大声は収まりそうになかったから!

周りの目は気にせず……最終手段だから!


これくらいしか思い浮かばなかったし、可愛い彼女を見た後で、やっぱり俺の彼女最高じゃん!っていう気持ちが抑えられなかった……。

 


唇を一瞬重ねて、彼女のご機嫌を取る。

そこに痺れて憧れて、ズッキューーーン!!!!的な効果音で頼む――恥ずかしいし!!



「(バレるでしょ?わざとだから!!!)」

 俺は小声で彼女を嗜める。

「いきなりは反則だって、何考えてるの??」

「さっきチューでもしとく?って言ったのは柚季さんでしょ?」

「あれは照れ隠しだから!!!女心も私で勉強していこうねっ!!!????」





私で勉強していこうね?だって??




なんて、えっちぃ言葉なんだよ……。








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