予兆

放課後、俺たちは教室で佐久間が来るのを待っていた。

ホームルームが終わった後、用事を終わらせてくるから教室で待っていろと言われたからだ。

「なんかさ~最近先生の顔色が悪いんだよね」

そう言って、少し寂しそうな顔で外を眺めている。

「そう?」

俺も何となく外に視線を向けた。

校庭では運動部が固まって走っているのが見える。

「寝不足的な感じなのかな~・・彼女はいないって言ってたけど・・」

そう言って、唇を尖らせながら眉を顰めた。

「ってかさ~・・それ何?ぶっちゃけ付き合いたいってこと?」

「そりゃね・・好きだからね!あ、晴ちゃんは男同士偏見ある人?」

「いや・・別にないけども・・お互い納得ならね」

でも、佐久間先生は、彼氏よりも彼女が欲しい人なんじゃないかな?

小鳥遊の事も生徒としてしか見ていない気がするけど・・

そんな事を考えていると、ガラッと教室のドアが開き佐久間が入ってきた。

「ごめんごめん!待たせたね!」

「待ったよ~!早く会いたかった~~!」

両手を広げて叫ぶ小鳥遊に「またそういう事を・・」と溜息をつきながら苦笑した。

そして、俺の方に視線を向けると

「珍しいな・・今日は安倍も一緒か?」

「いえ、小鳥遊を待っているだけなので遠慮します」

放課後まで勉強する気にはならないので、椅子から立ち上がった。

「ええ!?一緒に教えてもらおうよ!」

「いや・・邪魔しちゃ悪いからさ・・」

含みを込めて言うと、とたんに小鳥遊の顔が赤くなった。

「何だ、一緒にいればいいだろ?」

首を傾げた佐久間に、いやいや・・と首を振って愛想笑いで誤魔化しながら教室を出た。

ドアを締まる寸前に中から「終わったらメールする!」と小鳥遊の声が聞こえた。



「ふう・・」

大きく息を吐き廊下を当てもなく歩く。

どこからか、数人の話し声やバタバタと走る音は聞こえるが、俺が歩いている廊下には人影はない

「どこで暇潰すかな~」

空いてる教室でスマホでも弄っているのが良いだろうと、近くの教室を見て回り二つ隣の教室のドアについている小窓を覗いた。

人がいないことを確認してドアを開ける。

誰もいない教室は廊下よりも静まり返っていて、なんだか違和感があった。

とりあえず窓側の一番後ろの席に行き椅子に座った。

「ふう・・一時間かな」

呟きながらスマホを取り出し、ゲームをしようと画面をタップしたとき、視界の端でカーテンが揺れたような気がした。

ドキッとして顔を上げるが当然カーテンは揺れていないし、窓も空いていない。

「・・・・・・」

一気に体に緊張が走り教室をゆっくり見渡す。

ぐるっと見渡し、何もない事を確認して大きく息を吐いた。

気のせいか・・

心の中でそう思いながらスマホに視線を戻した時、今度はドンっとドアを拳で叩かれたような音が鳴った

「何だよ!」

クソっと思いながらも、立ち上がると同時にドアを睨んだ。

ドアについた窓から見えるところには人影は見えない。

耳を澄ませるが足音も聞こえない。

「ああもう!マジでやめろって・・クソ・・」

何度も悪態付きながら椅子に座りなおした。

次に何かあったら教室から飛び出すしかないと思いながらゲームを始めたが、それから何かあることは無かった。

一時間しないうちに、小鳥遊からメールがくる。

教室に戻ると二人は楽しそうに喋っていた。

「ね、面白いでしょ?」

「小鳥遊の家は賑やかだな~ハハ」

何の話をしているんだ?と思いながら近づいた時、急に背筋に悪寒が走った。

「うっ」

思わず足が止まり息を飲んだ。

「晴ちゃんお待たせ~」

振り返った小鳥遊が、固まった俺の表情を見て首を傾げた。

「どうしたの?顔真っ青!」

驚いた顔で俺に駆け寄ってきた。

「あ・・いや、何でもない・・大丈夫!」

震えそうになる声を腹に力を入れて堪えながら、笑って誤魔化した。

「・・・安倍・・大丈夫か?」

佐久間が険しい顔で俺を見ていた。

その佐久間の背後に黒い靄が見えていた。

「俺は大丈夫ですけど・・先生は大丈夫ですか?」

「は?何を言ってるんだ?」

俺の言葉に佐久間は険しい顔になった。

「先生は大丈夫に決まってるじゃん!俺がいるんだから!」

胸を叩きながら言う小鳥遊に、張り詰めた糸が一気に解れた

「まったく・・バカな事言ってないで、帰りなさい」

笑ながら立ち上がり、小鳥遊の頭を軽く叩いた

「へへ・・」

その手に小鳥遊が嬉しそうに笑うと、黒い靄が大きく膨らんだ

「小鳥遊・・行こうぜ」

慌てて言うと、佐久間の手が頭から離れ、同時に黒い靄も消えていく。

どういう事だ?小鳥遊から佐久間に移った?いや・・でも・・と考えていると

「小鳥遊、今度のテストは期待しているぞ」

そう言って教室を出て行った。

出て行くときの佐久間の背後には黒い靄は見えなかった。

「ねえ・・やっぱりさ、先生何かあったんじゃないかな?元気ないよ」

出て行く佐久間を見送りながらボソッと言った。

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