第34話 アスリオン再始動

リヒトと瞬は、ブリッジからアスリオンを眺めながら、

互いのわだかまりを解くように話し込んだ。


「アズランが戻ったんだな」

「ああ。なんか小せぇままだけど」

「良かったな」


瞬がもう何も気にしていないように微笑んだ。

リヒトは瞬に向き直って、頭を下げた。


「…リヴァイアサンの時のことは悪かった。俺の暴走で迷惑かけた」

「でも、そのおかげでアズランが戻った。 違うか?」

「そうかな。でも、リヴァイアサンの犠牲は忘れちゃいけない…俺は…」


瞬がリヒトの頭をぽすんと優しく撫でた。


「二人で考えれば、もっといい方法があったかもな。」



そこへリミが走ってくる。

「リヒト~!」


リヒトも手を挙げて答えた。

「もういい?話、終わった?」


ちらりと瞬を見ると、彼は小さく頷いた。

「うん、いいよ。」


「おかえり、リヒト!」

「ただいま…リミ」


思わず、“サトミ”と呼ぶのを躊躇ってしまった。少し不満げなリミを先頭にアスリオンへ戻る。アスリオン内は様変わりしていた。


「へへっ…!リヒトを案内しようと思って、待ってたんだ」


リミたち白(ブランカ)の適合者の本拠地――白の巣までの通路は、

いつの間にか複雑な氷の迷路へと姿を変えていた。


「イチゴの件があったでしょ?内部構造、全面的に見直したの」


リミが誇らしげに胸を張る。


「この氷、赤外線通さないからさ。外からじゃ構造は絶対に分からないの」


「へぇ……すげぇ……!」


リヒトが氷壁に触れると、

冷たさはあるのに、手の熱では溶けない。


後ろから瞬が補足する。


「ワン博士に構造を調べてもらった。これは白の力で保持されている特殊物質だ。地球のどんな物質とも違うらしい」


「ついてこなくていいのに……」と、リミがむくれる。

白の巣の中に入ると、ワン・マオリンが中央部で講義をしいていた。

何人かの生徒と盛んに意見を交換している。


「俺たちには知識が必要だ。あの博士から搾れるだけ知識を搾り取れと言ってある」

「面白そうだな。俺も今度混ぜてもらおっかな」

「リヒトが捕まったら、実験台にされちゃうかもよ」


リミが隣で軽口を叩く。

ワン・マオリンという人物を得て、アスリオンが変わろうとしている。皆、一様に明るく、溌溂としている。リヒトは前に進んでいる仲間たちを誇らしく思った。


白の巣を出ると、リミは「私もマオリン先生の講義があるから」と別れた。


「他も見るか?」

「ああ、見たい。でも忙しいんじゃないか?」


しかし、瞬に案内させるのは気が引けた。

リヒトが「他の奴でも…」と言いかけると、瞬が笑った。


「いいさ、一日くらい」


瞬は迷いなく言った。

その笑顔は、リヒトが知るどの瞬より柔らかかった。

二人が向かった医務室は、

太い根が絡み合い、入口がどこか分からないほどだった。


「どうやって入るんだ?」

「上からだ。これは緑の防御構造でな」


根をよじ登ると、中は一面の緑のホールだった。

天井を覆う葉、壁を埋める樹皮、無機質な医務室の名残がところどころ覗く。


「すっげぇ!」

「ここは緑(ヴェルディア)の力で非常時は木で覆い隠せるようになっている。」

「木の自動ドアか…すげぇな」


リヒトが緑の力を流すと、蔦や枝がさざめき、優しい光を放って応えた。

基地であり、森であり、秘密基地でもあるこの場所は、アスリオンの“生きている感”を体現していた。


「リヒト!」

振り向くと、カイハがこちらへ駆けてきた。


「リヒト、ありがとう!ナギを連れて帰ってきてくれて……!」


勢いのまま飛びついてきた身体を、リヒトは驚きつつも受け止める。


「うん、心配かけてごめんな」


カイハの向こうにナギニとノクスの姿が目に入る。


「おかえり。アズも、リヒトも帰ってこれて良かった。良かったね。」


ぎゅうっと抱きしめられ、リヒトは少し照れたように笑った。


「……ただいま」

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