小話2 兄と弟

「本日の適合者5名、適合率は全員20%です!」

「今日も最低ラインか。……色なしの全体数は把握できたか?」

「隠れている者も多く、アスリオン全体の2割程度の捜索しか進んでおりません」

「分かった。明日からそちらに人員を補充しよう。一週間以内にエリアの八割を捜索だ」

「はっ!」


部下の背を見送り、瞬は深く息を吐いた。

眉間の皺を指で揉む。最近は偏頭痛までしている。


「瞬、リヒトが来ているぞ」


声をかけたのはロウだった。

バスケ部時代の同期で、今も気安く“瞬”と呼ぶ数少ない仲間だ。


「リヒトが? いつから来てる?」


今はもう深夜だ。

リヒトの活動時間は、せいぜい夜八時までのはずだった。


「夕方には来てたよ。でも“瞬の仕事がひと段落するまで待つ”ってさ」


「仮眠室にいるぜ」とロウが告げる。


そっと扉を開けた。

仮眠室には小さなソファと簡易ベッド。

寝息が聞こえる。


だが、ベッドには誰もいない。

ソファを覗き込むと、リヒトが丸まって眠っていた。


「寝てるな」

「ああ」


「おい、リヒト!」

「起こさなくていい」

「え? でも──」


瞬はベッドから毛布を一枚取って、そっとリヒトに掛ける。


「今日はここに泊まる。ロウは帰っていい」

「そ、そうか?」


ロウは戸惑いながらも宿泊棟へ帰っていった。


瞬は仮眠室の鍵を閉め、眠るリヒトの隣に腰を下ろす。


白の不適合者の収容に、連日の赤(ロッソ)の襲撃。

彼が疲れ切っているのは知っている。

せめて、休める時くらいは休ませてやりたかった。


我ながら、過保護だな…と苦笑する。

それはきっと、まだ平穏にバスケットボールを追いかけていたあの日々を、

どこかで懐かしんでいるからなのだろう。


リヒトの寝息とわずかな体温に包まれながら、

瞬自身も次第に瞼が重くなっていった。


──その夜、瞬は久しぶりに深く眠った。

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