小話 女心って分からない

リヒトは自室の浮かぶ孤高の宇宙生物を見上げた。

青い髪の青年は暇そうにクルクルと宙を舞っている。


「なあ、アズ。黒(ノクス)ってどんなヤツ?」

「俺たちはお互いを語らない。」

「前、緑(ヴェルディア)と白(ブランカ)のこと教えてくれただろ」

「…星獣についてはな。」


アズランは譲る気がないようだった。


「じゃあ、黒(ノクス)の星獣は?」

「アイツは星獣を持ってない」

「だーっ!もう!」


情報もなく、正体もつかめない相手と向き合わなければならない。

どうすればいいのか。白(ブランカ)の記憶を辿っても、黒の情報は皆無だ。

赤(ロッソ)は会った途端、喧嘩を吹っかけてくる。

せめて黄(ソレイユ)とコンタクトが取れたらなぁ、とリヒトはひとりごちる。


黄の力を受け取る気にはなれなかった。

理由は分からない。

ただ、自分はそれを受け取ってはいけない──そう直感していた。

まるでアリが巣を広げるとき、水脈を避けるように。

そこを侵してはならないと思ったのだ。


「なんでだろ」

リヒトは声に出す。


「何が?」

ソファからひょっこり顔を出したユノが答えた。


ユノはあれからすっかり安定していた。

リヒトの庇護から出た彼女は、本来の奔放さを取り戻している。


「いや、こっちのこと…」

「ふうん?私さ、白の不適合者の部屋に移ろうかな」

「え?なんで?」


「最近、みんなこの部屋に居ないから。それならあっちの部屋の方が楽しいし」

「ユノがそうしたいなら、俺は止めないよ」


「リヒトってさ、モテないよね」

「は?その話、今関係ある?」


思ってもいないことを言われ、大変心外だった。


「優しいだけの男に女はキョーミをそそられないのよ」

「べつに、好きな子に好かれれば、それでいいし…」


精一杯の強がりをリヒト言った。


「その子がモテない男がタイプだといいね」

なんてひどい言い方だ。

今日に限って、ユノは悪態をついてくる。

リヒトは逆にユノが心配になってきた。


「ユノ、どうかした?」

「っ…!そうやって、気もないくせに心配して!」


ユノはリヒトの腕をぐいと引く。

彼は懐に入れた者にはとことん優しい。

然したる抵抗もせず、ユノのしたいままにさせてしまう──

のが、悪かったと今では思う。今更だけど。


ちゅっ


「諦めてなんか、あげないんだからっ!」


そう吐き捨て、ユノは荷物を抱えて隣の部屋に行ってしまう。


「あーあ…中途半端なことするから」

リヒトは頬を押さえ、びくりとした。


「カイハっ!居たの!?」

ベッドからカイハが起き上がる。その隣に柚葉も眠っている。


アズランが空中で腹を抱えて笑っている。

リヒトは納得ができないまま、少しだけ先を見据えた。

——黒(ノクス)と直面する日が、もうすぐやって来るのだ。

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