夢の続き

つばめいろ

夢の続き

「夢って何だと思う?」


 街のライトの喧騒を背に、学校の屋上で鈴花すずかは僕に問いかける。風にたなびく黒髪と潤んだ瞳がやけに綺麗に見えて、夢と現実の区別がつかなくなりそうだった。


「寝ている間に見る記憶の整理、とかだっけ?」


 ふふっと笑ってから


「私が言っているのは、人が抱く将来とかの願望とかの夢。でも確かに悠理ゆうりの言う通り、そっちの夢も同じかもしれない」


 冷たい夜風が気持ちよく感じる。


「どっちにしたってさっき僕と鈴花が言ったことがすべてじゃない? 記憶の整理と願望っていう。どちらにしても空想のものだよね」


「夢って本当にただの願望なの? それはただの想像なの?」


「そうだよ。ただの妄想に過ぎないでしょ」


「私はそう思わないんだよね。私達が夢見た世界っていうのは、確かに存在する違う世界線の私達の姿だって」


 鈴花は柵にもたれかかりながら、空を眺めている。


「世界がいくつもあるってこと? そんなの現実的じゃないよ」


「いくら現実的じゃないことでも、全部が嘘とは限らないよ。もし私がそのパラレルワールドから来たって言ったらどうする?」


 鈴花は僕に視線を移す。その視線はなんだか自分の心の中まで、見透かすように感じた。


「ただの妄言だと思うかな。証明する手立てもないし」


「証明できなければ正しくない、っていう悠理の考え方もいいね。じゃあ、今いるこの世界は夢の中? それとも現実?」


「現実でしょ。僕はこうやって考えて鈴花と話しているんだから」

 鈴花は微笑んでからもう一度星を見ている。変わらず空は星を輝かせている。


「悠理がそう言うなら、やっぱりこの世界も存在するんだよ」


                   *


 まぶたを開けると、ただ自室の天井が目に入った。時計の針は夜の二時指している。さっきまでのことをはっきりと覚えている。あれは『夢』だったのだろうか。寝ていたのだからそうとしか考えられない。でも、あれをただの夢だと言い切ってしまうのは、なんだか違う気がする。ということはさっきの世界で鈴花が言っていたことは本当なのだろうか。もう一度寝ればあの世界に行けるかもしれない。僕は、またまぶたを閉じて眠りについた。

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