空への助走

佐藤大翔

1歩目 プロローグ

 左足をマーカーに合わせる。白旗が下がったと同時に右手を挙げ、上半身を腰からやや後方に倒す。目を閉じて息を吸う。いつもより視界がクリアだ。


「いきます」


 ふっと息を吐いてスパイクで陸上競技場の赤い地面を蹴る。

 いつも通り二四.五メートル先の走幅跳の踏切板を目指して走る。

 最後の三歩はリズムよく。


 イチ、ニッ、サン。


 カッと白い板をける時、心地よい音が右足の裏から伝わる。

 膝を上げる。身体を反らせ、腕は背中から前へ。ななめ上に目線を。


 空が青い。


 一瞬、一秒にも満たない時間だが、跳んだ瞬間は空が見える。

 白い踏切板を蹴って、足が砂場に着くまでの間に。

 そんな時、走幅跳の「跳べた」は「飛べた」に変わる。


 ――そらける。


 〇コンマ数秒間。身体は地面から切り取られる。


 視界に映る世界はどこよりも高く青く、そして自由だ。


 広がる空に手を伸ばせば太陽の熱を感じる。この一瞬は永遠だ。


 かかとから勢いよく着地。

 バッと白旗が振り下ろされる。

 髪が汗で額につく。

 首筋を伝う汗をユニフォームの胸元で拭い、空を見上げた。


 夏だ。先輩と跳ぶ最後の大会が始まる。

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