第3話 初仕事

初仕事


(今日は初仕事だ!張り切らないと)


「おはようございます!?」


彰人が風紀委員室のドアを開ける。すると、綾香以外の全員が腕立て伏せをしていた。彰人は目の前で何が起きてるのか分からなくて、思考停止して彫像になっていた。


「おー彰人だぁ~!いかにも困惑してるねぇ…アップだよアップ。ボク達はアップをしてるんだよぉ〜」


「なんでしてるんですか?」


「だって殴るだよ〜運動前はアップに限るねぇ」


(いや殴るの確定してんのかよ!) (まぁ…備えあれば憂いなしって言うしなぁ〜)


(だとしても…なんだよこのカオスな光景は!)


すると綾香が口を開いて、まるで我が子を見るかのような笑顔でこう放った。


「いやぁ景観ですなぁ〜」


(なんでお前は何気に楽しんでるんだよ!常識人だと思ってた俺が悪かったよ!)


葵が立つと、彰人に竹刀を渡す。


「一本だけ相手してくれる?相手にならないと思うけど、やらないよりかはマシだし〜」


(しれっとディスるな)


模擬戦がスタートした。


「ボクが稽古つけて上げる。はい面被って…」


葵が面を彰人に無理やり付ける。姿を見た…体幹がしっかりと出来ており、なんというか…いつもの委員長とは思えない、雰囲気だった…


「委員長は面被らないんですか?」


彰人が聞く。すると、葵がニヤリと笑った。


「心配?大丈夫だよ…おそらく一本も入れられないと思うから。」


(そうだ…この人剣道6段だった。いつものポンコツ委員長見てて忘れてた。)


正座をする。「よろしくお願いします」と挨拶した後そして剣を構え立ち上がる。次の瞬間


「面!」パチン! 


大きな声と共に、彰人が面を防御する隙もなく、竹刀が頭に打ち込まれた。


「遅い!」


葵が声を張る。そしていつも通りに戻ってこう言った。


「ごめん…彰人くん、一つ言って良い?傷付くと思うけど…」


葵が口をつぐみ、深呼吸をする。そしてニコっと笑い、口を開く。


「彰人くん、お話にならない。」 


顔は笑っている。


「これは放課後稽古案件だよ…よくこれで書こうと思ったね。これじゃ戦力にならない。」


(容赦無っ…)


そして、途端に真面目な顔になる。


「確かに基礎は出来てる。でも初段として考えても初段の中でも弱い部類。私が放課後稽古付き合う。取り敢えず、朝の巡回言ってきて!くれぐれも何もしないで?茜の足を引っ張るかも…」


それを聞いた茜がこう放った


「うるせぇ!アタシがキャリーしてやる。基礎はできてるんだろ?なら良いじゃねぇか…素人よりかは出来るってことだろ?あとアタシの実力、舐められちゃ困るよ」


それに対して葵は、呆れたように「はいはい」と言った。


ガラッ…


風紀委員室のドアを開ける。初巡回の始まりである


「君たちは一年の教室巡回ね。一年のAからF組。何故かこの学校の第一校舎は、長いんだよねぇ…2階に一気にAからF組が入ってて、3階に一気に2年のAからF組が入ってる。ボクは…ここで一人…風紀委員の犬として…」


「うわぁぁぁぁぁ!」


(蘇るトラウマ…)


「じゃぁてな訳で、五十嵐、綾香ペア、彰人、茜ペア。行ってきて。朝巡回。今日は君たちが10分の毎休み時間、昼休み、昼休みは3年の方もお願い。」


(立ち直るの早っ!)


朝巡回が始まった。彰人と茜は一年の教室、綾香と五十嵐は2年の教室。


階段を上がって右に曲がったすぐの場所には、A組からC組があった。左にはF組からD組


「私はFからD組見に行くから、あんたはAからCね。」


茜が彰人に指示する。彰人はAからCを巡回していた。相変わらずの見慣れた場所だ。見慣れたとは言っても、まだ入って1カ月も経ってない。とても静かだった。そして、DからF組はと言うと…


「おいゴラァタバコ吸うな!臭せぇだろボケカスが!タバコは20歳からだ!法律守れ!」


「人のもの奪うな!持ち主に返せ!」


「殴るな!弱者を!拳は強者に向けるものだろ!」


「なぁに教室でフル◯ンになってんだ!服着ろ!服!」


「おい紙飛行機投げて遊ぶな!エアガン撃つな!」


茜の怒号が聞こえる。


(ヤ◯ザみてぇ)


彰人は心の中で思った。彰人の担当教室はと言うと、特に怒鳴ることも無かった。トイレの目の前で合流した。


「私の権威のおかげで、FからD組は殴らずに済んだ。そっちは?ないでしょ?どうせ。」


「ないに決まってるだろ…てかお前らんとこ、荒れすぎじゃね?」


「言ったでしょ?檻の中から鑑賞できる、超高級動物園だって。」


茜が笑う。そしてトイレを最後に確認すると、男子トイレの個室の中で、男女の声が聞こえた。


「茜。」


彰人が呼ぶ。


「あ?」


(柄悪っ)


「なんか密室で男女の行為してるっぽいけど…これどうする?」


茜の耳元で小声で聞く。それを聞くと顔を少しだけ赤裸にしてから、


「それ!女に行っちゃダメだって!私だから良いけど…普通の女には絶対するなよ?特にあの純粋無垢な綾香なんかには絶対しないでよ?分かった。で、その『男女の行為』をどうするって?放置放置。」


(風紀委員としてその対応はどうなんだよ〜!風紀的に直接関わるけど!?)


「だって、『人の恋路に首突っ込むな』でしょ?」


茜がニコッとする。


(こいつ変な所優しいな…)


一方2年の方(五十嵐、綾香ペア)


「五十嵐先輩〜」


「おう!なんだ!」


「呼んだだけ…」


綾香が五十嵐をからかう。


「そうか!」


五十嵐は元気にそう言う。


「五十嵐先輩〜!」


「今度も呼んだだけか!?」


五十嵐が聞く。すると綾香は殴り合いが起きている所を指差して、五十嵐に聞く


「あそこ、殴り合い起きてますけど、どうします?止めます?朝っぱらから殴り合いなんてF組の人達はどんだけ元気なのでしょうか…」


綾香が聞くと、五十嵐は少しだ


「聞く必要もないだろう!止めに行くぞ!」


「わっかりましたぁー」


綾香が走っていく


「おい!ちょっと待てぇい!先走るな!」


五十嵐が止めに行くが手遅れだった


「ちょっと!そこの人達!喧嘩は辞めてください!」


綾香がそう言うと、喧嘩してるヤンキー達が綾香をギロっと見る


「あん?何だこの弱そうな女は…そうだ!こいつの体をさしだす変わりに、借金チャラにしてくれ!」


綾香が呆れて、また注意する。


「生徒間でのお金の貸し借りは禁止です!」


綾香がまた注意をする。


「うるせぇなぁ!おいこの風紀委員の弱そうな女、分からせてやろうぜ!下学年の分際で!」


ヤンキーが殴りかかる。綾香が呼吸を整えて、上段飛び蹴り首に食らわす。力なく倒れる。そしてもう一人に向かっては相手の右ストレートを避けて、強烈な腹パンチを御見舞する…衝撃波が走る。そしてその場でヤンキーは嘔吐した。


「ちょっと…やりすぎましたかね…これでも調節したのですが…」


すると、2年のF組からボスらしき男子高生が来る。


「俺の仲間をようやってくれたなぁ!その身ぐるみ剥がしてやる!」


「あの一年終わったな」と言う声が聴こえる。「だってあいつ、章、極真空手で県大会優勝してるんだぜ!」と言う声が聞こえる。綾香は「何だ…関東大会か…」と思っていた。すると挑発し始めた。


「ほら。来てください。県大会の力を使って、年下なぶるのそんな楽しいですか?しかも、か弱い女子なんかに…」


お互い、構えをする。極真空手は被弾上等である。まずは章が回し蹴りをする。連続だ。1回目は腕でいなし、2回目は避けた。そして、綾香が一方的だった。章は隙をつかれて殴られるだけ。そして章の一瞬の隙を見て、綾香が飛び後ろ回し蹴り。章の頭の横にあたり。章が気絶。勝負は実に早かった。そして章が一瞬だけ起きる。

「ありがとう…ござい…ました…綾香…さん…選手…」


それを言うと、章が再び気絶する。


「逃げずに私に喧嘩降ったあなたの勇気に敬意を表します。ただ、その力は他人の為に使いましょう。」


綾香がかがんで、気絶してる章に言う。


「やっば…遅刻!」


風紀委員室に戻って、葵に挨拶する。


「遅いよ〜やっとボクもここから、離れられるよ…」


そう葵が言う。


「五十嵐さんはどこですか?」


綾香が聞く


「もう先に教室にもどったよ」


そして葵が何かを察したような笑顔をした。


「こんだけ時間かかったって事はなんかあったんだね。力ちゃんと調節した?君さぁ、世界大会も近いんだから、悪い噂を作らないように注意してよ?最悪出禁になるんだから」


それに対して、綾香が少し困ったような表情でこう言った


「いやぁ…頭と首触った感じ、異常は見られなかったので、気絶させましたけど、大丈夫ですよね?やり過ぎじゃありませんよね?」


綾香が食い気味に聞く。すると葵が突っ込む


「やり過ぎだよ!バリバリ!まぁ君が本気で蹴ったら、普通の人なら骨が割れたり、ヒビが入るし…まぁ…調節した方か…時間がないし、昼休みで話そう!あ~そうそう、生徒会権限で無遅刻にしたから、安心して自教室に戻ってねぇ〜」


昼休み


「うっ…うぅ…友達といっしょにご飯食べたかったよぉ…ぼっちメシなんて生まれて初めて…」


昼休みに風紀委員室に入ると、落ち込んでいた。まるで漫画のような落ち込み方である。


「ボッチじゃないですよ…私が友達ですよ!」


風紀委員室に入ってきた綾香が二コッと笑う。


「あぁ〜…こんな所に天使がおる〜」 

葵がまるで推しを見るかのような目で綾香を見た

そして、綾香が葵の隣りに座る。


ドォン!


※音を大袈裟にしてます


葵「へあ?」

茜「ん?」

彰人「え?」

五十嵐「ほう?」


全員が驚く…なぜ驚いたか…


「弁当デカっ!何!?なんで!?重箱じゃん…!いつもそれ食べてるの?」


葵が言葉を代弁してくれた。そう。デカいのだ。


「はいそうですよ…逆にみんなの方が少なくて足りるんですか?」


綾香はあたかも、その量が当たり前のように、質問した…


「そんな量食べたら普通は吐くわよ!」


茜が鋭いツッコミを入れる。


「いただきますねぇ…」


ハムッ!


「美味しいですねぇ…このだし巻き卵、出しが効いてて、砂糖と塩味もちょうどいいです…まぁ…これ一人で作ったんですけど。」


(自分で作って自分で食レポするのかよ…)


(悲しくないのかよ。)


彰人が綾香の顔を見る。彰人の目には哀れみがある


(うわ…すっごい悲しそう)


「彰人くん…何見てるんですか?なんですか?その私を哀れむ目は…!あ~!一人で食レポしてる所が哀れに見えたんですね!ならあなたが食レポしてくださいよ!」


綾香が無理矢理食わせようとする。


「なんでそんな結論に至るんだよ!意味分かんねぇよ!」


「はい!あ~ん!」


綾香が自分の箸を向ける。


「それは恋人同士がやる事だろ!何全く関わりのない人物にやってるんだよ!」


「そうなんですか?友達間なら普通ですよね!?」


「女子同士ならな!だけど、異性にまでするのかお前は…」


「友達に異性とか関係あるんですか!?男友達にもやりましたよ?私」


(こいつ、天然の男たらしだ…)


「なぜか知らないけど、その後校舎裏で告白されんだけど…」


「そりゃそうだろ!男ってのは単純な生き物何だよ!単細胞なんだよ!」


「そういうお前の何気ない動作が男を落とすんだよ!しかもそれは陰キャだけなんて大間違い。間接キスなんてされなら陽キャも陰キャも惚れるだろ!この天然垂らしめ!」


綾香がニコっと笑う


「へぇ~知らなかったです〜今後注意します!じゃぁ、自分で取ってください。」


(なんだろう…こいつなんかズレてるんだよなぁ)


15分後…


「はぁ〜お腹いっぱいです〜」


葵、茜、彰人、五十嵐(こいつ本当に全部食べやがった!しかも15分で…)


「それでは見回り行って来まぁーす」


葵、茜、彰人、五十嵐(そんだけ食べて動けるのかよ!)


綾香が走った


葵、茜、彰人、五十嵐(走れるのかよ!)


「じゃぁ、私たちも行こうか…彰人。戦闘が無いと良いんだけど…昼食後にボクシングとかリバースRTAじゃん。」


昼休みの見回りは、校舎全体を回る。校庭、校舎裏、体育館周りなど、色々と回る。


「じゃぁ私、体育館の中見るから、あなたは体育館裏ね…」


このイベントが、あの暴力女との関係が始まるなんて…この時は知る由もなかった。


体育館裏を回ってると、ふと女の嫌がるが聞こえた。声質から見て、茜では無いことは確かである。と言うか、茜がやられるわけ無い。声の方に行ってみると、非常貯蔵倉庫の中から聞こえた。この場合、茜に頼るのだが、茜は間が悪いことに、体育館の中にいる。それに倉庫の中であるため、茜に聞こえるわけがない。自分で行くしか無いのだ…

声の数から見て、複数の男からなにかされているようだ…ただ、彰人は勇気が出なかった。なぜなら、自分の剣道術じゃ複数の男に、通じるかどうか分からないからだ…彰人は大人しく、茜を呼び出そうとした。ただ、次の瞬間


「いやぁ!やめて!やめて!やめて!嫌だ!いやぁ!掴まないで!キモい!」


という声が聞こえた。彰人は段々と使命感に囚われた…ただ、進もうとするも、足が固まった。動こうとしても動けない…

(女の子が困ってんだよ!動け!男だろ!)


そして男の声が聞こえた


「おい抵抗するな!オラァ!」


殴る音が聞こえた。


「痛い!嫌だ…お願い…誰か助けて…」


彰人は助けてという、悲痛の声を聞いて、居ても立っても居られなくなり、茜のLINEをグループから勝手つなげ、電話をかけた…そして、ついに倉庫を開けた。


「ふ…風紀委員だ!辞めろ今すぐその行為を!」


彰人がビビりながら、ヤンキーに注意する。


「あぁ?風紀委員?あぁ最近発足された鉄拳風紀委員ってやつか…強者揃いかと思ってたら、所詮こんなもんか…」


一人のヤンキーが彰人にそういった。


「なんだこの弱っちそうな見た目の男は…とっととボコして、あの生意気な女とやっちまおうぜ…」


二人目のヤンキーがそういった。


彰人はその顔を見て、すぐ誰だか分かった。3年の唯一のヤンキー、極田晃教と相田宗介である。


(体格的にも勝ち目がない…茜が来るまで耐えるか…電話をしたのだから、何かしら異常には気付くだろう…)


「面!」


彰人が竹刀を振るう。ただ、剣が当たった所で彼らはどうってことなかった…


「竹刀だけじゃノーダメだぞ馬鹿野郎…木刀持ってこれば良かったなおい!」


極田が殴る。彰人は反応が遅く、そのままもろに腹に食らった…悶絶した。そして立ち上がる。


(自分の体を粉にしてでも自分にヘイトを向ける!俺が倒れた瞬間、あの子は絶対にこの二人から何かしらやられる。下着姿って所から、だいたい察しはつく。だからこそ、茜が来るまで俺が耐えるんだ…)


「彼女に!指一本触れさせるわけには行かない!」


体育館、用具置き場


「顔が気に入らねぇんだよ!」


バコン!


「やめ…」


ブー…!ブー…!


「ん?誰かしら…彰人?何があったの!?」


電話を取る。


「もしもし!もしもし!」  


(電話繋げっぱなしか…何かしら異常が発生したんだな…ただすまない…こっちもこっちで用事があるんだよ) 


電話の向こうから、音が聞こえる。それに耳を傾ける。


(ん?…この弱っちそう…?面?…打撃音?まさか!…でも今はこっちを終わらせないと…耐えてよ…彰人…)


電話を切る。そして体育倉庫の中で高1をいじめている、2年のヤンキーを止めようとする。


「やめろ!風紀委員だ!そこの金髪!それからゴリラ!その男子を解放しな!」


それを聞くと、柄悪そうなヤンキーが茜を向く。


「おらぁ金髪って名前じゃねぇぞアマが…葉山金一だ…そして、こいつぁ、ゴリラじゃなくて郷田和樹だ」


それを聞いた茜が、こう返答した


「そりゃどうも…いちいち丁寧な自己…」


いきなりパンチが来る。茜はそのパンチを手のひらでキャッチする


(意外と強いなこいつ。)


「おいおい不意打ち良くないぞ」


茜がステップを踏む…


(守る場所が多すぎる。顔はもちろんの事、それに加えてみぞおちもだ…こいつのさっきのパンチを受けた感じ、みぞおち殴られたら、ほぼ確定リバースだ。リバース中の隙を見せるわけには行かない。こっちがやられる…葉山、あいつはアタシが出た関東大会で当日棄権したやつか…ハハッ…このパンチを受けた感じ、相当な実力者だろ…興奮してきた…)


「葉山って言ったなぁ…アタシをせいぜい楽しませろ!」


葉山が右ジャブを放つ…葉山の拳を茜は防御する。そして左ジャブを放つ。葉山もそれを防いだ…そして距離を取る


(意外とやるなこいつ…)茜はそう思った。


(まじで耐えてくれよ…彰人…こいつもしかしたら時間かかるかもしれねぇ。)


郷田が葉山を勝たせるために奇襲をしようとするが、葉山に止められた。


「郷田…やめろ…こいつぁ面白い…あの一年いじめるより、こいつと戦う方が楽しい…」


そして、まるでプロのようなボクシングの試合が始まる。そしてジャブで距離を取り、茜が話しかける


「なぜお前は拳を振るう?」


そして茜は足を踏み出し、一定のリズムで拳を放つ…葉山はそれを防いで、ジャブで距離を取る。


「なぜかって?そりゃ弱いものいじめが楽しいからだ!そして、気に入らないやつを殴ると気持ちいいからだ!」


ジャブ、ジャブ、ストレート葉山が放つ。


「そうか…アタシの理由は、お前が気に入らないからだ!真っ当に生きようとする人間を傷付けるお前に!」  


全てを防ぐと反撃をした。


(これマジで泥試合だな…彰人…大丈夫なのか?)


「気に入らないから殴る…根本的に一緒じゃねぇか!」


葉山が反撃する…そして茜がジャブをして、距離を離す


「確かに、根本的には一緒だ!でも、あんたとアタシは決定的な違いがある。」


強い右ストレートを放つ


「それは!」


葉山の反撃を防ぐ


「筋が通ってるかどうかだ!」


左ストレート。葉山が防ぐ…葉山が反撃…防御して距離を取る。


「あんたの暴力には筋がねぇ…信念なき拳はただ、人を傷付けるだけの力だ!人を傷付けるだけの力なんてこの世には必要ない。あるだけ迷惑だ」


葉山の拳の勢いが弱まる。


「あんたの拳は何も無い…力だけで重さは感じない。そんな拳、捨てちまえ」


茜の言葉が響き渡る。葉山の拳が止まる。


(俺ぁ、なんのためにボクシングをしていたんだ…そうだ…思い出した…好きな子を守るためだった…俺が無力なせいで、その子はトラウマを植え付けられた…香菜…お前のための力を、俺は悪用してしまった…なんで俺はこうなったんだろうか…そうだ…香菜、お前がトラウマで自ら命を絶ってから、俺は拳の行き場を見失い、ここまで落ちたんだ…笑えるぜ…そうだ…俺の拳の信念は、人を守る事だ!思い出さしてもらって感謝だぜ風紀委員のやつ)


「俺の拳は空っぽじゃねぇんだよぉ!よそ見すんな!」


ストレートが飛んできた


「おっと…危ないぞ…」


茜は避けた。葉山は追撃してこなかった。そしてこう言った。 


「お前、手負いが居るんだろ…味方に…だから、ずっときょろきょろ見てた。こんな状態でまともな試合が出来るわけ無い。逆に、手負いがいてよくここまで戦えたな…俺は今までずっと、年下をいじめて生きる意味を見出していた。だが、新しい生きる意味が出来た。お前と試合する事だ…久々に生き甲斐が出来た。感謝する。」


そして、茜が笑いながらこう言った


「どうした…気が変わったか…変わりようが激しいな…」


茜が嘲笑する。


「お前のおかげだ。」


葉山が言う。


「そうか…それは良かった…オェ…」


茜がリバースする


「やっぱり食後に激しい運動はやるもんじゃねぇな」


茜が笑う。


「それはそれとして、アタシは今こんな状態だから、彰人ってやつを助けてくれ…アタシしばらく、ゲロでも吐いてるよ…」


すると葉山が立ち上がり、こう言った。


「了解…ライバル」


葉山が言う


「ライバル?」


茜が聞きかえす


「これから俺達はライバルであり友人だ。」


葉山が親指を立てる


「あいよライバル」


茜も親指を立てる


体育館裏


「うがっ!」


彰人が蹴飛ばされる。地面に転がる


「へなちょこだなぁ…こんな程度の実力なら、あの忌々しい、風紀委員普通に潰せるぞ!ハハッ!俺等は堂々と弱いものいじめが出来る。」


そして彰人は胸ぐらを捕まれ、殴り飛ばされる…


「ハハッ!何が、指一本触れさせねぇだ!オラァ!」


地面に転がると、そのまま、まるでサッカーボールのように蹴られている。彰人が一方的にボコられている。もはやリ◯チである。女の子はショックで何も言えなかった。そして、彰人の意識が途切れそうになった瞬間、ドアが開いた。


ガラッ!


「君たち、3年のくせに一年をなぶるとか、趣味が悪いねぇ…さっきの俺みたいに、生き甲斐が弱いものいじめだったか?弱いものいじめより楽しい事は出来なかったのか…?」


(ん?誰?この金髪野郎…)


彰人は意識が途切れそうになっていたが、この金髪野郎のお陰で、困惑でさっきまでの眠気がなくなった。 すると、後ろから茜が来た。


「吐ききったか?お嬢さん。」


金髪が茜に向かって話しかけた。


「あぁ、胃の中空っぽだ…さっきのあんたの拳のように。後で飯奢れよ。ライバル」


彰人(なんか変なあだ名付けてんな…ライバルってなんだよ)


「了解だぜ…ライバル」


彰人(ライバルライバルくどいな…苛ついてきた)


そして、茜が彰人に突っ走ってきた。


「大丈夫?骨折は?」


茜が彰人の両腕を触る。右腕に触れて、茜がショックを受けて、恐怖顔をした…罪悪感があるのだろう。


「本当に、頑張った…ごめん…本当にごめん…私が来ないばかりに…ここまで傷付いて…」


彰人が気絶する。抱き上げる…お姫様抱っこの様な感じである…そして耳に言い聞かせるように言った。


「逃げても良いのにあんたは逃げなかった…自分を勘定に入れずに、目の前の子を助けようとする。見直したよ…あんたの事…もしもあんたが私を呼んでたら、あの子は手遅れだったかもしれない。ただ…」


(ただそこが、自分を勘定に入れない所が…私は気に入らない…) 


体育館裏 


「鉄拳風紀委員に変わって俺がお前らを制裁する。相田、極田…お前のその空っぽの拳…否定してやる」


「俺の拳はもう空っぽじゃねぇんだ…」


相田と極田が苛ついたらしくいきなり殴りかかった…その後、15分程で制圧した。


「お前らの拳には重みがねぇ…だから弱ぇんだよ」


保健室


「右腕骨折…それと多くの打撲…まぁ、しばらくは右手は使えないね…利き手はどっち?」


羽田先生が聞く。


「右です。」


彰人が答える


「まいったねぇ…これは…しばらくは左手で…友達一人はいるでしょ?その子にノートを写してもらいなさい。」


羽田先生の話を聞くと、茜は顔を青ざめさせた…そして小声でこう言った


「私のせいだ…私が遅れたから…電話きた瞬間、行けば良かったんだ…ごめん…彰人…本当にごめん…私のせいで…」


茜が涙を流して、泣き始めた…それ見て、彰人が慰め始めた…


「茜のせいじゃないよ…俺の力不足だよ…この右腕治ったら、ボクシング教えてよ…俺にもう少し力があったら、お前に依存せずに済む。自分こそ、いっつも足を引っ張ってごめん…」


彰人が笑う


(なんでそんな傷で笑えるの?私が負わせたようなもの…なのに…なんで…)


茜の心臓の鼓動が少しだけ大きくなる…


「分かった!教える!あんたを強くする!」


(そう…これは私の義務!…)


「ボクシング教えるなら俺も協力しようか?。」


葉山も保健室に来ていた。


「ライバルとして、ライバルに協力するのは、当たり前だ…」


2ヶ月後。右腕の骨折が治った…茜ののボクシング教室が始まる。まだ彰人は知らなかった…茜の訓練がとても厳しいこと…葵の訓練が厳しい事を






この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません


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