『ようこそ異世界転生プログラムへ~転生者(クライアント)様の【主人公になりたいオーダー】、絶望的予算で叶えます~』

@Studio-13

【プロローグ】

その部屋は、不快なほどに白かった。


塵一つない床。 音を吸い込む壁。 そして、玉座に座る男。


天使たちの最高機関「中央(ヘッドオフィス)」の評議官室。


この部屋は、いつ来ても息が詰まる。


「来たか、セラフィム嬢よ」


椅子に座る上官が、重々しくセラフィムの名前を呼んだ。 彼女は一礼する。声は、出さない。


彼は、手元のデータパネルに視線を落としたまま、続けた。


「君も知っての通り、第13番島のディレクター……神楽正義(かぐら せいぎ)という男は、我々の希望であり、同時に最悪の存在だ」


上官は顔を上げ、苦々しい表情で彼女を見た。


「彼の功績は、まさに聖人級だ。先月彼が扱ったクライアントは、我々全員が匙を投げた案件だった……だが、神楽だけは『出来る』と言って、その案件を請け負い。驚異的な成果を上げてみせた」


希望。その言葉に嘘は無いのだろう。 だが、彼女は知っている。光が強ければ、その影もまた濃くなることを。


「……しかし、そのやり口は悪魔の所業だ。いや、断じて許容できん」


彼はデータパネルを操作し、彼女に向けて表示する。 そこに映し出されたのは、奇跡という名の「罪」のリストだった。


【第13番島 監査報告(抜粋)】


奇跡的な成果:魂の純度上昇率、過去最高値を更新。


悪魔的な所業:

予算達成率:101.5%( 標準の20%の予算で、なぜか黒字を達成 )

職員の月平均時間外労働:182時間

精神負荷による休職率:45%

他部署への規約違反報告(資材強奪など):216件

所属天使の転属希望率:92%


「……これは部署などではない。職員の粉砕機(ミートグラインダー)だ」


上官は吐き捨てるように言った。


「成果を出している以上、我々は奴を解任できない。だが、このまま放置すれば、我々の秩序そのものが内側から腐り落ちる。だから、君が行くんだ、セラフィム」


彼の瞳が、セラフィムを射抜く。


「奴の罪を暴け。規約違反、違法行為、何でもいい。プログラムを終わらせるための、決定的な罪状を見つけ出し、女神様に報告するのだ」


「…………承知しました」


静かに、彼女は答えた。 報告書の、異常なまでに美しい成果と、地獄のような労働環境を示す数字が、脳裏に焼き付いて離れない。


矛盾している。何もかもが、常軌を逸している。


(神楽正義……)


セラフィムは心の中で、その名を反芻した。


(あなたの『正義』が、どんな罪で出来ているのか……きっちり暴かせてもらう)

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