第1部:交流 / 第28話:死地へ

 正式に騎士団へと復帰したレオニスを加え、王宮の軍議は新たな局面を迎えていた。

「ギザリオン公国からの援軍が来るまで持ち堪えるには、白鹿大橋を破壊するしかありません。しかし、敵の数が多すぎる…」

 ガウェインが厳しい表情で広げた地図を、レオニスは鋭い視線で睨みつける。レオンが提案した「白鹿大橋の破壊」作戦。目的は正しい。だが、手順が違った。

「ガウェイン。お前は城壁の守りから精鋭を集い、騎士団の主力を率いて城の正門前に展開。アンデッド軍団の主力を引きつけ、王都を守り抜け」

「なるほど、陽動作戦か。しかし橋の破壊はどうする?」

「俺とレオン殿の部隊で行う」

 レオニスは地図の裏手を指し示す。「城の裏手にあるアルヴァン川の抜け道から、少数精鋭で出撃する。最短ルートで白鹿大橋を奇襲し、爆破。その後、お前の部隊に合流し、城内へ帰還する」

「…わかった。しかし城壁の守りが手薄になる。持って半刻が限界だぞ」

「その間に、必ず決着をつける」

 レオンは心の中で呟いた。(十中八九、死ぬな)彼は、隣に立つ副官レナ・アストリッドに、覚悟の笑みを向けた。アストリッドもまた、静かに頷き返す。「将軍と共に逝けること、光栄であります」

 突撃部隊が出撃のため、城の裏門へと向かった、その時だった。

 城壁の上から、一人の男が地面を揺るがすほどの轟音と共に飛び降りた!着地の衝撃が、周囲の兵士たちを吹き飛ばさんばかりの砂埃を巻き上げる。

「な、何者だ!?」

 兵士たちが剣の柄に手をかけ、緊張が走る。だが、その男の姿を認め、アンナたちが歓声を上げた。

「ザインさん!」

 彼は、アンナたちに「約束は守ったぜ。お嬢ちゃん」とニヒルに笑うと、駆け寄ってきたグレンに声をかけられる。

「おい兄ちゃん、バケモンか!よくあの地獄から生きて戻って来れたな…」

「まぁな。百から上は数えてねぇ」

 ザインが軽口を叩く。その言葉を裏付けるかのように、遠く離れたグリーンウィロウの町では、町の入り口から森にかけて、おびただしい数のアンデッドの死体の山が、夕暮れの茜空を背景に、静かにそびえ立っていた。

「さてと、準備運動は終わりだ。俺にも参加させろよ」

 ザインは、レオニスとレオンを見てニヤリと笑った。

 その姿に、兵士たちから、民衆から、再び割れんばかりの歓声が上がる。「勇者ザインだ!」という認識が、「これならいける、いけるぞ!」という希望へと変わり、やがて「生きて帰ってくれ!」という、祈りにも似た無数の声援となって、広場を揺るがした。

 レオンは、その光景を見て静かに呟いた。「勇者とは、絶望の中において尚、皆に希望の光を灯すことができる者のことを言うのかもしれんな…」

 レオニス、レオン、そしてザイン。三人の英雄が、初めて一堂に会した。

 レオニスは、集った二人の英雄に向かって叫んだ。

「レオン!ザイン!」

「…礼は言わんぞ!」

「はなから期待しちゃいねぇーよ」

 ザインがニヤリと返し、レオンもまた「承知」と不敵に笑い返す。

 レオンは自軍の騎士たちに向かって叫んだ。「鉄の国より来たりし同胞よ!グリムロックの武威を、今こそ示す時が来た!立ち塞がる死者の軍勢を打ち砕き、友邦エアデールの道を切り拓け!」

「「「おおおおぉぉぉっ!!」」」

 歴戦の勇士たちが雄叫びで応える。その熱気に、エアデールの騎士たちもまた、鬨の声を上げた。

 突撃部隊の先頭で、レオニスは蒼剣ブリューナクを抜き放ち、高らかに宣言する。

「城門を開けよ! 我らこれより、死地に入る!」

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