01.異世界転移と新たな出会い 01
俺、佐田
年はまだ16だが学校には行っていない。
中学時代に虐めを受け不登校となり、その影響で世間の目を気にした両親により、自宅から離れた隣町にアパートに1人で移り住み、親の金で引きこもり生活をしている。
本来なら今年の春から高校へと進学するはずだった俺は、相変わらずの引きこもり生活を続けている。
そんな日常を送る俺だが、食事の後は昼寝の時間だ。
そんな生活に不満はない。
勉強は好きではない。
将来に夢も希望もあるわけがない。
毎日好きなことをやって適当に、それなりに楽しく暮らしている。
だが、だからと言って俺を虐めていた奴らへの恨みは消えていない。
俺への苛めを見て楽しんでいた奴らの事も許してはいない。
今でも定期的に過去を思い出し過呼吸になったり、悪夢を見ることも珍しくはないし、そいつらへの憎しみだけが生きている理由になっている。
あんな奴らの為に死んでたまるか。俺は少しでも長く、そして可能な限り人生を楽しんで生き永らえてやるんだ。
その思いだけで日々を生きている。
そんなことを思い出し、気持ちが沈み歯噛みしていた俺は、部屋全体が光に包まれてゆくことに驚き戸惑った。
その光が治まり眩しさから目が慣れた時、俺は自身が森の中に立っていることに唖然とした。
今の俺は部屋着としているトレーナーを着て足元にはスリッパを履いているだけだった。
「ここは、どこだ?」
思わず呟くがその問いに答えてくれる者はいない。
「なんだこれ……」
周りを見渡すと木々しか見えない。
上を向けば空は青く澄みわたっている。
頬を強く抓り痛みを感じた後、異世界転移というワードが脳裏に思い浮かんできた。
こんな現象、夢でなければなんだって言うんだ。ドッキリで瞬時に森に移動させられるはずもない。転移したというのが一番しっくりきてしまう。
そう思いつつもやはり信じられない光景に身動きができなかった。
不意に何かを感じ恐怖に身を竦める。
『うむ、我に察知されずにこんな深いところに気配がすると思ったのじゃがな……久しぶりに強者と思うたらとんだ小者のようじゃ。気配を消すことのみに長けた者なのじゃろうか?』
目の前には透き通るような真っ白な肌をした美女が、キラキラと輝く青くそして長い髪をゆらしこちらを見ていた。
俺はそれに見惚れてしまう。
女性の露わになっている胸はその長い髪により隠されている。
そして、その女性の下半身には青白く……先が鋭く尖っている足が8本ある蜘蛛だった。
下半身は柔らかそうな薄い体毛に覆われているようにも見える。
「アラ、クネ……」
思わずそう呟いた時には、もうすでに俺の体は糸に巻かれ本当の意味で身動きができなくなっていた。、
『さあ、食事の時間じゃ。怖かろう?我こそがこの森の支配者であるぞ。理解したなら、恐怖に震える顔を見せ、我を楽しませるがよい!』
糸により手繰り寄せられた俺は、上半身にある白い手により頬を挟まれる。
左手で頬を撫でられ、糸の出どころである右手をぐっと引くと、少しだけ締め付けが強くなってくる。
だが、至近距離で見たそのアラクネの真っ白な顔に、痛みや恐怖よりも先に神秘的な美しさを感じてしまう。
「綺麗、だな」
本当につい口にしてしまった言葉であった。
「虐めらて引きこもりだった俺が、異世界に飛ばされてこんな綺麗な女性に食われるって、珍しい体験だし結構マシな最後、だったかもしれないな」
俺は目を閉じ、自分の最期を待っていた。
『お主、今何と言ったのじゃ?』
目を閉じ最後を待っていた俺は、その彼女からの問いに戸惑いながら目を開ける。
「……マシな最後だったかも?」
『その前じゃ!』
怒った顔もまた魅力的だと思い頬を思わず緩ませる。
『何を笑ろうておる!その前じゃと言うておる!』
「綺麗だなって思っただけだ」
またも感じたままを口に出してしまう。死を覚悟した所為で口が軽くなったのだろうか。
『綺麗?この我が?』
「ああ。すごく神秘的で、美しいと思った」
蜘蛛足をカチカチならし戸惑って表情を見せるアラクネ。
『この我を、恐ろしくは無いのかの?』
「怖かった。けど綺麗だった」
『命乞いをして助けてもらおうと思うも無駄じゃぞ?』
「ああ。俺なんかであなたの生きる糧になるのなら、一思いに……でも、できれば痛くしないで欲しいけどな」
また足元からカチカチと音が鳴っている。
よく見るとその白い肌もうっすらと赤く染まっているように見えた。
もしかしたら照れてらっしゃる?
「待ってくれ!もしかしてだが照れてたり、するのか?」
『なっ!この我が、お主なんぞの言葉に心をときめかせるなんぞ、あるはずが無いのじゃ!』
その瞬間、俺を縛っていた以後が強く締め付けられ小さく悲鳴を上げる。
『あっ、すまぬのじゃ。つい……』
そんな謝罪の後、俺を捕縛していた糸はシュルシュルと緩み、そして消えてしまった。
地面に落とされ尻もちをついている俺は、何が何だか分からず呆然としながら尻をさすっていた。
『お主、何者じゃ?』
「何者?」
『自慢ではないのじゃが、我はこの森全体でさえ人の気配を察知できるのじゃぞ?』
「凄い、ですね」
『じゃが、お主はここまでやってきた。まるで突然ここに湧き出たようにの』
「それは……」
俺がその問いには答えられれることと言えば、突然ここに湧き出た、としか言えないだろう。
『どんな強者が来たと思うたら、あまり魔力を感じないひ弱な男が一人いただけじゃ。未だにお主を囮にこの周辺に他の者が潜んでいるのかも、と思うておるぐらいじゃぞ?』
困惑した表情を見せてくれる彼女に、俺は正直に全て話そうと思った。
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