幽霊は考える葦である。―Post-Mortem Cognitive Entity Analysis―

猫大。

第1話

私は幽霊である。

名前は思い出せない。


気がついたら、日本家屋の居間の真ん中に立っていた。

この家に住んでいたのか、なぜここにいるのか――何も思い出せない。


ただ、家具や床のほこりの積もり具合からして、しばらく人の気配はないようだ。

普通なら記憶喪失にでもなればパニックになりそうなものだが、何故か私は妙に冷静でいられる。不思議な感覚だ。


自分の腕を見ると、うっすらと透けており、床が見える。

...わお。

幸いにも服は白いワンピース姿で、こちらも半透明だ。……謎パワー。

なお、ワンピースが透けて身体が見えている訳ではない。センシティブにはならない。


周りには私の死体らしきものはなく、少し古めの家具が並んでいる。

自分の遺体を目にするのは気分のいいことではない。ないならないで、まあ助かったと思うべきか。


――以上のことから、私は幽霊になったらしい。

しかも、The・ステレオタイプなやつだ。


幽霊とは何か。

死んだ人の魂が、この世に未練や恨みを残して成仏できずにいる姿。

だが私は、記憶もなければ未練も恨みも覚えていない。


記憶とは脳が覚えるもの。

肉体を失った私に記憶がないのは、ある意味当然なのかもしれない。

だが、そうなると今こうして思考していること自体がおかしい。

私は何で考えられるのだろう。脳もないのに。


考えれば考えるほど、訳が分からなくなってくる。


とりあえず、今はこの家を探索してみよう。

ここがどこなのか、なぜ私がいるのか――その手がかりを探すのだ。


……その途中で、自分の死体なんか見つけたくないけど。

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