金色のしゅくふく

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金色のしゅくふく


 「ミンちゃん!もうできたの?アンジェはもう準備できてるよ、もう小学六年生なのに!いつも寝坊して待たせるんだから!」


 昔の家の間取りは細長い廊下型で、母さんの声が玄関からリビングを通り抜け、台所の隣のダイニングルームまで響いた。


 僕は顔を赤くして、急いで最後の一口の肉まんを飲み込み、カップの豆乳を飲み干した。小走りでシンクに行き、蛇口を最大にひねった。皿とカップが水しぶきの下で激しく跳ね返り、胸がびしょ濡れになってしまった。


 マジックテープを剥がさずに、僕は両足をねじり込むようにして靴に履いたが、かかとが地面につかず、よろめきながら家を飛び出した。


 「ハイ…!アンジェ、おはよう。」僕の顔は赤くて、服は濡れていたけれど、心は温かかった。


 「おはよう!ミンちゃん。」アンジェはとても元気に挨拶した。


 許安琪(シュウ・アンジェ)は僕より一か月早く生まれていて、双子座、いつもポニーテールにしている。彼女は僕より頭一つ分背が高く、席は僕の後ろから二つ席を隔てた場所にある。ごめん、先に言うべきだった、彼女はなんと僕の家の真上に住んでいて、僕の家は二階、彼女は毎日学校に行く時、決まって僕の家の玄関前で待っていてくれた。


 なぜ中学に進学してからは、一緒に登校しなくなったのか忘れてしまった。だって同じ中学校だし、隣のクラスなだけだったのに。僕たちは二人とも路地裏のバス停で208番のバスを待たなければならなかった。


 何気なく僕のクラスの「ボス」の取り巻きの口から聞いた。六組の翔さんがちょうどアンジェにアタック中で、毎日決まって僕のクラスの前を通り、彼女のクラスの入り口で彼女の下校を待っているとのことだった。


 次の日の朝、僕はもう一度確認した、前日用意した金色の包み紙の「フェレロ ロシェ」がちゃんとランドセルに入っているか。そして、耳を玄関のドアに当て、外の様子を伺った。


 階段から音が聞こえてきた。僕はランドセルを背負い、赤く色が剥げた塗装の鉄の扉を開けた。


 「おや!ミンちゃん、ずいぶんぶりに君がこんなに早く出かけるのを見たよ!」アンジェは笑って言った。


 「ハイ!アンジェ、まあね、たまにかな。」僕は平静を装った。


 階段の足音が二人の音になった。アパートの鉄の扉がガチャリという音を立てて開いた。


 「これ、あげる。誕生日おめでとう。」


 僕の顔は、きっと赤くなっていたのだろう。今日着ている服は確かに乾いていたけれど、でもなぜだか胸はドキドキしていた。


「ありがとう。」アンジェは顔で一杯の笑顔だった。彼女の頬のえくぼがひときわ際立っていた。


 なぜだか僕の視線はいつも彼女の両目とえくぼの間をさまよっていた。


 彼女は何か考え込んでいるようで、急いでチョコレートをランドセルにしまった。


 その日、バス停には僕のクラスの男子生徒が現れた。普段この駅でバスを待つことなどない人が、今日に限ってここにいる。


 「おお、君にまた新しいアプローチが来たんだね。」と僕は言った。


 「やだ、私がこのタイプを好きになると思う?」アンジェは苦笑いして聞き返した。


***


 中学二年生の後期、廊下でアンジェに会った時を覚えている。僕は彼女の家のポストに入れた金色の包み紙のチョコレートを受け取ったか尋ねた。彼女はうなずき、甘い笑顔を見せた。僕はもう八年間連続で、彼女の誕生日に同じブランドのチョコレートを贈っていた。彼女はとても嬉しそうに見えた。


 僕の体操服のズボンが足元まで引っ張られた。


 「ハハハ!ミンちゃん、女の子とイチャイチャしてるのか?」


 僕はどれだけ殴ったのか覚えていない。気がついた時には、指の関節が皮が剥けていた。でも、「ボス」の取り巻きが頭を抱えて殴られながらわめいているのは聞こえた。


 「はいはい!僕が悪かった!あと二発殴らせてやるよ!ハハハ!」


 記憶がない。


 アンジェはどんな表情だった?直前の彼女が微笑んで、小さなえくぼがゆっくりと開いていたのを僕はまだ覚えている。


 あの日からだろうか、僕がアンジェに話しかけなくなったのは?


 中学を卒業した。かつてクラスで三番目の成績だった僕が、高校入試で落ちてしまった。受験前に、ご利益があるとされる文昌廟にお参りまでしたのに。


 アンジェはどれくらいうまくいったのだろうか?


 大学は、浪人しなかったものの、僕はこの私立高校で数少ない現役合格者だった。でも、滑り止めの大学だった。


 アンジェはどれくらいうまくいったのだろうか?


***


 「ミンちゃん、六月の第二日曜日、空いてる?」アンジェが階段から降りてきた。


 「えっ!ハイ!引っ越したと思ってたよ?」僕は顔を上げて、久しぶりに見る甘い笑顔を見た。彼女は相変わらずポニーテールを結んでいたが、以前よりもずっと大人になっていた。


 「荷物整理に戻ってきたの。」アンジェは一歩一歩階段を降りてくる。


 「これ、あげる。私、結婚するの。」アンジェは赤くて精巧なカードを取り出した。カードには細かくキラキラと輝く、フェレロ ロシェのような金色のラメが散りばめられていた。


 上にはウェディングフォトが印刷されていた。パリッとしたスーツを着た、目鼻立ちのはっきりしたかっこいい男性と、とても見慣れないけれど、とても美しい女性。頬の横のえくぼだけは、僕にもわかった。


 「君は相変わらず、可愛く笑うね。」


 「あ!その、写真がとても綺麗って言いたかったんだ。お似合いだよ。おめでとう。」僕は慌てた。


 「ありがとう。じゃあ、バイバイ。」アンジェは振り返って微笑んだ。階段には、彼女がさっき上って行った足音だけが残された。


 僕は彼女の後ろ姿を見上げたり、名残惜しんだりしなかった。きっと見上げられなかったんだ。今の僕の表情を彼女に見せたくなかったんだろう?


 あの記憶が再び湧き上がり、あの断片がリプレイされ始めた。


 なぜ思い出したのか、なぜまだ覚えているのか、僕は忘れてしまった。


 引き出しの最も深い場所にしまってあった、血のシミがついた、くちゃくちゃに丸められた封筒。

 

 

 あの日、


 彼女の笑顔、彼女のえくぼは、


 本当に美しかった。


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