第四章「白の迷宮」

気づけば、冷たい蛍光灯の下、無機質な白い部屋の中にいた。

視界に映るのは整然と並ぶ机と椅子、そして淡い光にぼんやり浮かぶ床の模様だけ。

胸の奥がざわつき、森での記憶と、朝と夜の通知が絡み合って、頭の中がぐるぐると渦を巻く。


腕に貼られた番号付きのタグの感触が、現実感をかすかに支えている。

でも、こんなものに参加した覚えはない――それなのに、体は震え、心臓は早鐘のように打つ。


どこか見覚えがある影が、部屋の端に立っている。

顔ははっきり見えない。声も出さず、ただじっとこちらを見つめているだけ。

視線を感じるたび、背筋が冷たくなる。


恐る恐る一歩踏み出す。

床の冷たさが足裏を刺すように伝わり、呼吸が乱れる。

手を伸ばせば、影に触れられるような気がして、思わずひっこめる。


胸の奥で、かすかな声が繰り返す。


「何度、繰り返すの…?」


森での直感、朝の通知、夜の短い言葉――

すべてが、この空間に繋がっているように感じる。

ここからどうすればいいのか、何を信じればいいのか、わからない。


影はまだ動かない。

光も音も、時間も、すべてが止まっているかのように思える。

ただ、胸のざわめきだけが確かに存在し、逃げ場のない恐怖を刻み込む。


そして、視界の端で、かすかに何かが動く。

何かが、この無機質な空間で、これから始まる“何か”を告げようとしている――

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本物 森川 @mirabamiraba

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