第三章「ノイズの奥に」

夜の部屋は静まり返っているはずだった。

でも胸の奥のざわめきは、森での体験と朝届いた通知の余韻で、まだ消えずに残っていた。

影が揺れ、机の上の小物が微かに位置を変える。

耳を澄ますと、枝が折れるような音やかすかな足音……

視界には誰もいないのに、体中の神経が“誰かに見られている”ことを告げる。


スマホが震え、画面には新しい通知が浮かんだ。


──「大丈夫、君なら」


その短い言葉が、胸の奥のざわめきを一層強くする。

まるで、森の出来事とつながっているかのように――


突然、視界がざわつき、部屋の空気が歪んだように感じる。

光が瞬き、音が遠のき、壁の模様がノイズのように崩れる。

そして、次の瞬間——


気づけば、白く無機質な部屋にいた。

冷たい蛍光灯の下、整然と並ぶ机と椅子。

そして、目の前には、どこか見覚えがあるような人影が立っていた。

でも顔ははっきり見えず、声だけが低く響く。


「また、戻ってきたの?」

その声に、体が震える。


腕には番号付きのタグが貼られている。

自分は、こんなものに参加した覚えはない。

でも、胸の奥に残るざわめきは、森の出来事も、通知も、すべてこの部屋の“仕掛け”の一部だったことを告げていた。


視界が再び揺れ、現実と実験の境界は消えかける。

そして、心の奥で小さな声が告げる。


「本当に、逃げられるの……?」

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