本物

森川

第一章「夢のゲーム」

金曜日の夜、私は一人静かな部屋でスマホを眺めていた。

画面に彼からメッセージが届く。


「ちょっと会いたい」


何気なく画面を閉じた瞬間、空気がひんやりと変わった。

窓の外の夜景がぼやけ、光がわずかに歪む。

心臓が早鐘のように打ち、息が浅くなる――次の瞬間、私は見知らぬ場所に立っていた。


目の前には、人々が次々と入っていくお化け屋敷の入口。

「いや……行きたくない」

泣きそうになりながら訴える私を、彼は無視して中に進む。


足がすくみ、後ろに下がろうとするが、人の波に押されそうになる。

叫び声、笑い声、枝が折れる音――森の中の運動場のような場所に立つと、全てが遠く、異様に静かに感じられた。


ルールはわからない。

でも体が自然に動く――怖くても、振り返るより前に進むしかない。

直感が、逃げろと告げていた。


私は木の陰に身を潜め、呼吸を殺す。

足音が近づき、誰かが転ぶ音。

叫び声が遠くで響く。

出口の方向はわからない。でも、直感に従い、森の奥へ進む。


枝や葉に足を取られそうになりながら、心臓が破れそうに打つ。

恐怖で体が硬直しかけるが、直感が手を引く。

「ここを曲がれ」「この影に隠れろ」

無意識に選ぶ道が、少しずつ出口へと近づいている。


時間が経つにつれ、周囲の人数は減り、森は静かになった。

振り返る余裕もなく、ただ直感を信じて進む。

やがて目の前が開け、外の光が差し込む瞬間、全身の力が抜ける。

私は最後まで生き残った――


お化け屋敷の前に戻ると、人々が出口から戻ってくる。

泣きそうになりながら彼を探すと、ヘラヘラ笑って現れた。

「どうだった?」


背後から美しい女性がアタッシュケースを差し出す。

中を開けると――100億円。

そして気づく。殺したはずの人々も無事で、すべては“ゲーム”だったのだ。


夢か現実か――その境界は、まだ揺れていた。

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