第13話 朝吹さまの作品
企画にご参加ありがとうございました!
さすがの品質!
一つ一つのエピソードが具体的で、言葉のチョイスも勉強になりました(そして自分にはできそうにない😂)。
では早速……
♢
金属面に貼ったシールを剥がした後にしつこく残る接着糊を取り除くには、その上から木工用ボンドを分厚く塗り、乾いて固まったところを剥がすと下の汚れも一緒に剥がれる。同様に人は人に対して、「取り繕ったその仮面を何としても剥がしてやりたい」とたまさか願うものらしい。
→木工用ボンドの例がわかりやすく、そもそもやってみたいと思いましたw 仮面を剥がすときに、あのボンドのペリッとめくる快感も含まれていますかね。
清んだ湖面のようなすっきりと美しい心をわざわざ他人に見出したいとはあまり想わないだろうから、ぼくや他人の表情筋の下にあると彼らが信じてやまないものは、きっと石の下のむかでのような、廃石のような、何かだろう。
→自分のことしか考えていない私だと、「そういう人たちがいる」という感覚で情報を重ねて読んでいきます。
人から仮面を剥がしたがる者たちはお決まりのようにこちらを不自然な存在だと見做す。そんな彼らは彼ら自身の醜く暗い一面を図らずもべろりと露出させながら、おあずけ中の狗のようにぼくを見る。
→なるほどなるほど。
だからぼくはたまに、わざと彼らの前で感情を露わにしてやるのだ。
「昇進に必要な資格試験に落ちたよ」
すると狗は眸を輝かせて尻尾をふりたて、昂奮の頂きに舞い上がる。肩を落としているぼくの様子に隠しきれない満足を得てだらしなく悦び、その後のちに、表をあらためて月並みな慰めや励ましを口にする。
→大人の世界!!
こうなったらどちらが表面を取り繕っているのだか分からない。そんな時、ぼくは確かに互いの間に同じ感情が夜道を横切るいたちのようにして一瞬だけ走るのを見る気がする。
→主人公は、仮面剥がしたがり屋派を非難する立場かと思いきや、ここで「同じ感情」が現れるのが面白いですね。人間の複雑さ。
『眉毛ちゃん』と綽名されている学生バイトだ。綽名の理由は彼女の眉毛にある。化粧をしてもしなくても変わらぬような不器量な顔立ちに、眉だけが定規ではかったかのように左右対称に色濃い。
→すごい想像がつく!!
時間のずれ込んだ昼休み、社内の休憩室で買ってきた総菜パンを食べながら、あの女の子はどうしてあの眉にしているのだろうと考えた。長芋のような顔の中で唯一、眉だけが立派すぎる形を保っている。それ以外では朝昼の忙しい時間帯にも落ち着いて客をさばいていて危なげないから、ああいう子は繁盛している旅館か蕎麦屋にでも就職すると重宝されそうだ。
→この辺りは、私も考えそうですwww なぜ?と。別に悪いわけじゃないし、バカにしてるわけでもないけど気になるんですよね。相手を説得したいわけじゃないし、ただ話のネタにしたいわけでもない。結局、何にも繋がらないので考えのを辞めるために、私自身は「周りを見ない」という対策を立てていますw こういう気をとられる現象はわかりますね。
毎朝、彼女は鏡に向かって刀のようなあの眉を描く。誰からも可愛いとは云ってもらえぬであろうあの顔に石をおく。客はわたしの眉を見る。わたしは装っている。わたし自身は見えてない。
→刀! これもいいですね。形の比喩だけでなく、彼女のなんか譲れない頑なも感じる。顔のパーツで、唯一手軽で大きく変えられる眉への着目がさすがと思いました。かつ顔は自分では見えない。誰用?つまり他人用。猿やオランウータンがコミュニケーションのために笑うという話を思い出しました。
「それは彼女を憐れんだことを誤魔化すためのお前の自己弁護的な想像だな」
→憐れんでるの?!憐れんでいたかな……。と、私が主人公であれば、はっきりと自分がわからない感じがなんか良かったです。主人公がこのセリフにどう感じたかは書いていませんが。
「単に、彼女の美意識が大幅に歪んでいるだけさ」
「云いすぎだ。紺野」
→どちらのセリフの意味もわかりますね。
「都会に出てきて大学に通い大勢の人と接するバイトをやっていて、それでまだ自分の眉が周囲の女と比べておかしいと分からないのは相当におかしい。違うか?」
紺野は悪い男ではない。
→このあたりも理解できます。
「なんなら俺が店に行って彼女に云ってやろうか。君の眉は似合ってないよ、化粧品売り場の店員に相談してごらんと」
女慣れしたちょい悪のこいつが云えばきっと厭味にもきこえない。興味の沸かない女の眉なんてどうでもいいことを隠さない。胃もたれするような好奇心や同情が混在していないのがかえっていいのだ。
→想像がつきますね。
もし仮面について訊けば、紺野はさめた顔でこう応えることだろう。
「気に入らないというだけで粘着して、本性を暴くと騒ぎ立てる集団の心の闇こそ怖いけどね俺は」
→これ、実際聞いたわけでなく、想像ということですよね?一回目、ここを読み飛ばししまい、次の段落が飛躍したように感じたんですが、ここで主人公の内側に意識が向いたんだと気付いて、スムーズになりました。
正義正論で爪先まで全身をきれいに覆い隠せたとおもいこんでいる者たちの、鼻の穴を拡げて大上段に構えている唇のめくれ上がったあの顔ぶれは、猿か、ギロチンを眺める群衆の粗野な薄笑いを連想させる。純真無垢を主張しながら承認欲求と加害欲をたっぷりと刷いたそれは下手な営業のように粘ついて、戸袋に挟まった蛾のような奇矯ぶりを仮面の隙間に覗かせる。
→ここの語彙や比喩が、これまでの流れからイメージした主人公の人物像とちょっと繋がらない感じがしました。逆に、普段見せない側面が顔を出すとこうであり、主人公の多面性が出た場面とも読めるかなと。
こんな時には落石注意を促すために「ラク」と声を上げるのだが、先に身を縮めたぼくの口は咄嗟には動かなかった。
「ラクッ」
下方に向かって声を放ったのは紺野だ。その警告は嵐の到来を告げる船乗りのように響いた。
→こういう自分が知らない話が書いてあると面白いですね。二人の対照的な様子もうまい。
「危なかったな、紺野」
隠れていた岩陰から出て紺野を探すと、紺野は膝をつき両手を顔面にあてて低い声で呻いていた。ぼくは待った。
空が翳り、山相から影が消えた。出現する巨人のような雲。顔を上げない紺野を見つめるぼくの仮面の下に何か潜んでいないかを探るようにして、狗鷲が頭の上を飛んでいた。
→このラスト。すごいですね。普通、大丈夫か?と駆け寄りそうですが、何を待ったのでしょうか。仮面、顔面と来てますから、紺野の仮面の下が出てくるかもしれない?とか。狗鷲は、主人公を見ていますね。これは我々読者もそう。
主人公は仮面を剥がそうとする彼らに批判的の言葉を使いながら、一瞬自分と彼らが重なる。さらに今は、爽やかで理知的な紺野が対比になり、紺野の仮面の下を期待する主人公がいる。そんな主人公を見ている我々がいる。多かれ少なかれ、我々は仮面の下を知りたくて仕方がないのである……と読みました。
主人公が直接紺野に関わるよりも、山のアクシデントで試されるような中で表現されているのが好みでした。あと、誰に対しても距離がありますね。それが主人公の仮面の効果か。
♢
総評
価値観、立場といったハッキリしたものではなく、場面によって現れてくる人間の内面はちがうよ、という風に読みました。
そういう人間の曖昧さ、複雑さ、相反するものをどちらも持っている、というのがとても面白かったです。
改めて、エピソードから描き方から熟練を感じました。
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