第7話 結婚って
秋の光が優しく差し込む、明るく華やかな結婚式の日。
彩音は招待された友人の結婚式で、久しぶりに昔の友達と再会していた。
「彩音、最近どう? 彼氏とかできた?」
友達の笑顔に彩音の胸は少しざわつく。
彩音は少しだけ目を伏せて微笑む。
「うん…まあ、ぼちぼちかな」
簡単に答えたつもりでも、心の奥が揺れているのを感じる。寛美との恋は友達にも言いにくい。しかも結婚式、ノーマル、ストレートの人達の集まりだろう。
披露宴の華やかな雰囲気、笑い声、キャンドルの柔らかな光。
その中で、彩音は元彼の姿に気付いた。
久しぶりに会うその人は、あの日の面影のまま、微笑みを向けてくる。
「彩音……元気だった?」
その声に、心が跳ねる。
昔の思い出が、淡く胸の奥に蘇る。
彼は佐藤 久司(さとうひさし)、壁に貼っていた写真の人。元彼だ。同じデザイナー同士で付き合って、喧嘩別れした人。でも寛美の次に好きだった人。
近況を話したりしていると佐藤は「彩音は…今付き合ってる人いるのか?…その、今度ご飯でも行かないか」
彩音は心が揺れた。浮気心じゃない。結婚と出産が目の前にある気がした。この華やかな披露宴で寛美と普通の幸せが天秤にかけられた気がした。
連絡先が変わっていないことを確認し、二人は席に戻った。
寛美への罪悪感でつぶされそうになる彩音。
その罪悪感からか二次会でひどく酔い、彩音は自宅のベッドに倒れ込む。
頭の中は混乱していた。
元彼と再会し、懐かしい気持ちと新しい現実が交錯する。
『寛美……私はどうしたいんだろう……?』
手元に置かれたスマホを握りしめ、目を閉じる。
心の奥底では、寛美と過ごした日々の温もりと、元彼との「手軽に始められる普通の生活」の誘惑が、激しく揺れ動く。
彩音は頭を抱えて小さくため息をつく。
「私は…何を選ぶべきなの……?」
甘く温かい思い出と、結婚・出産の現実的な欲望が交錯し、体と心引き裂かれんばかりに惑乱する。
ベッドの上で目を閉じ、寛美と元彼の顔が浮かんでは消える。
心の中では、すでに決断の影がちらつく。
ーー
朝の柔らかな光がベッドに差し込む。
彩音はまだ酔いの残る頭で、昨夜の混乱を反芻していた。
『寛美……私は、本当に幸せになりたい……でも、それは普通の結婚と子どもを持つこと……』
心は痛む。寛美への愛情は消えていないのに、選ぶべき道は別にある。
彩音は小さく息をつき、深呼吸する。
手元でスマホを握りしめ、涙をひとしずく落とす。
それは寂しさと愛情と、覚悟のしるしだった。
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