第4話 昼と夜の湿度差
秋の緩やかな日差しを浴びながら、映画館の前で待ち合わせをする。向こうから彩音が小走りにやってきて
「お待たせー」と声をかける。
ズレたオフショルダーのニットを直す仕草、タイトスカートが描く美しい曲線…。見つめるだけで胸がざわつく。心臓の奥がそわそわ跳ね、少しだけ恥ずかしい気持ちが広がる。
寛美は無意識に手元を整えながら、彩音の顔を追う。笑顔、目の輝き、仕草の一つひとつに意識が集中してしまう。
昼間の街の明るさの中で、これほどまでに心を乱されるとは思わなかった。触れたい、でも触れられないもどかしさ。胸の奥で少しずつ膨らむ緊張に、息が詰まる。
映画館の暗がりでは、手をつなぐのも自然で、肩が触れ合うだけで心がざわつく。
視線を合わせるたびに、昼間のもどかしさが温かい感情に変わる。ずっと隠れていたい、ずっとこうしていたい。繋いだ手の指が絡み、指先でそっと触れ合う。
昼間の緊張が夜の甘い時間への橋渡しになっていくのを感じた。
上映が終わり、夕暮れの街を歩きながら、寛美はそっと提案する。
「今日は…家まで送るけど、もし良かったら、また家に行っても良い?」
彩音は一瞬目を伏せる。
「…えっ、あ…」
口元には小さな笑みが浮かぶ。
「少しだけ…なら、来ていいよ」
胸が高鳴る。手をぎゅっと握り返す彩音の温もりに、昼間のドキドキが重なり、私の心は自然と熱くなる。夜の静かな部屋で、二人だけの時間が待っている──その予感に、ときめきがさらに膨らんだ。
夕闇が迫り、街の光が淡く部屋に差し込む頃、二人は彩音の部屋に入った。
扉を閉めると、昼間のカフェや映画の明るさが嘘のように静かで、二人だけの時間がゆっくり流れ始める。
「お腹すいた? パスタ作るけど食べるでしょ」
彩音の声に、私は胸がじんわり熱くなる。
彼女の手際よく鍋を扱う姿、細く長い指先、肩越しに漂う優しい香り…。見ているだけで心が甘く震える。
寛美はカウンターに座りながら、そっと手を伸ばして、肩に触れる。
「…疲れてない?」
「ううん、大丈夫。寛美と一緒にいるから楽しいの」
小さな笑みと声の温もりに、自然と顔が緩む。
パスタが出来上がると、彩音は綺麗な皿に盛り付けてくれる。
「どうぞ、お口に合いますかどうか」
柔らかな光の中で、彼女の目が私を見つめるたび、心の奥がぎゅっと熱くなる。
彩音も隣に座り、パスタを頬張る。
香りも味も、彩音の優しさが滲んでいるみたいだった。
食後、ソファにかけてテレビをみていると、彩音が立ち上がり、
「お酒、少しだけ飲む?」
「うん…」
軽くグラスを傾けると、赤く透けるワインが口の中に広がり、体も心もゆるやかに温まる。
彩音と肩を並べ、互いの呼吸を感じながら、昼間の映画やカフェでの時間を思い出す。
触れ合った手の感触、指先の温もり、見つめ合った瞬間の胸のざわめき…すべてが今、二人の間に重なり、甘い余韻となる。
彩音がそっと肩を抱き寄せてくれる。
「…寛美、少しだけ…甘えてもいい?」
彩音によりそうと、寛美は愛おしそうに彼女の髪を撫でる。
「安心していいよ。彩音の事が好きだから、大切にしたいの。」
指で髪を梳くと、彩音は更に身体を寛美に預けてくれた。
彩音の肩や胸から体温が移ってくる。私は鼓動が早くなるのを感じる。
「彩音さん、聞こえる?私、ドキドキしてるの」
「うん、少し早いね。私もドキドキしてくるわ」
それでも寛美はゆっくり手のひらで彩音の肩や背中を優しく撫でる。よしよしと言うように。体温を伝えて、彩音を同じ温度にしたかった。
じれったく感じたのか、彩音から口付けをくれた。
柔らかく、可愛らしい唇に触れると寛美の心が少し開いていく。
彩音を見つめると、瞳も少し潤んでいて求めてくれている気がする。
寛美も口付けを返す。今度は深く、舌先が絡み合い滑らかに、優しく愛を伝えると、彩音の身体から力が更に抜け、私に預けてくれるように胸に倒れ込む。
彩音が寛美の胸に寄り添いながら、頬は赤く、唇にはほんのり光が差す。
「ん…寛美…キス上手いね」
「わかんない、彩音としか付き合った事がないから」
少し驚く彩音。
「それなのに、私に声掛けてくれたの」
照れる寛美。
「後悔したくなくて、頑張ったの」
彩音は嬉しかったのか、お姉さんが教えてあげると思ったのか、口付けが情熱的になる。
「彩音はなんで私を受け入れてくれたの?前の恋人は男性でしょう?女の子に声掛けられて、なんでBARに行ってくれたの」
淡い口付けをしながら会話は続く。
「一生懸命で、震えててまっすぐで。応えてあげたかったの」
私は首筋に口付けして耳元に囁く。
「母性が強いのかな…彩音優しいね」
「ん!ん……」
首筋弱いみたい。可愛いな。
声は甘く震え、でも瞳は寛美をじっと見つめてくる。昼間の照れ隠しは消え、夜の静寂に包まれて、少しだけ乱れた表情がとても愛おしい。
「大丈夫、彩音…大切にするよ。大好きだもん」
指先が寛美の背中に絡みつく感触が、胸の奥をぎゅっと熱くする。
「寛美が好きよ、元彼のことも…もう大丈夫だから」
壁を観ると写真が剥がしてある。
彩音の言葉に応えるように、私はそっと胸元に口づける。
服越しに漂う、あのプレゼントしたバニラの甘い香水の香りが全身を包み、胸が甘く震える。
また一つ、この香りの記憶が私たちの間に刻まれた。
甘く乱れる瞳で私を見上げ、彩音の息が少し荒くなる。
寛美は優しく頷き、抱きしめながら唇を重ねる。
互いの体温と心音が静かに溶け合い、バニラの香り、昼間の光の余韻、夜の熱が混ざり合って、二人だけの甘く濃密な世界が広がる。
彩音の胸元を撫でると、小さく「ん…」と漏れる声が途切れ途切れに響く。恥ずかしさと甘さ、安心とときめきが入り混じったその表情に、私の胸はもう苦しくて、欲望も愛も、解放したくなってしまう。
「彩音…」
寛美が囁くと、彼女は少し乱れた息で顔を上げ、微笑みながら小さく唇を重ね返す。
「私…寛美が好き…大好き…」
その声は夜の静かな部屋に溶け込み、優しく響くように広がる。
寛美はさらに強く彩音を抱きしめ、喜びを伝えながら力を緩める。
胸の奥には熱い塊がじんわりと広がり、この熱を彩音に優しく、丁寧に伝えたいと願う。
大好きな彩音に愛を届けたい──その一心で、手のひらも指先も唇も舌先も、全てを使い、少しずつ熱と愛を伝える。
彩音が私の胸に体を押し付けて、乱れた息を漏らす。
「ん…寛美…もっと…」
途切れ途切れの甘い声に、胸の奥が熱くなる。自然と手が腰に回り、指先で柔らかく撫でるたびに、彩音の体が小さく跳ねる。
「彩音…その声…すごく来る…」
耳元で囁くと、彩音は恥ずかしそうに顔を伏せる。
それでも体は離れず、彩音の指先は私の鎖骨から胸元をゆっくりなぞる。
昼間の照れも恥じらいも、もう夜の熱に溶けていくようで、二人だけの世界が濃密に重なる。
寛美の手がそっと彩音の足の付け根を滑り、敏感なところを優しく撫でる。
「う…ん…っ、寛美…」
小さく漏れるため息と声に、彩音の柔らかな体が私の腕の中でふわりと震える。
昼間の光の余韻を胸に抱えながら、夜はさらに甘く熱く染まっていく。
彩音が私の胸にしがみつき、小さな声で甘く囁く。
「寛美…もう、私…我慢できない…」
二人は見つめ合い、心の奥に温かなものが広がるのを感じる。
「彩音…大丈夫、全部受け止めるよ」
彩音の体が柔らかくくねり、呼吸が荒くなる。彩音は声をあげて力が抜けるよに胸に頭を寄せ、彼女を抱きしめる。
元彼のことはもう気にしない、今は彩音だけが全てだ。
夜の静かな部屋で、昼下がりの光の余韻とバニラの香りが混ざり合い、二人だけの甘く濃密な世界は、さらに深く優しく、心と体を熱く満たしていく。
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