第3話 ヘビ

夏休みが近づくころ、校舎の裏庭は草でいっぱいだった。

篠崎たちが持ってきた黒い袋の中で、細いヘビが動いていた。

まだ子ども。

それでも、舌を出して空気を舐めていた。


「今日の主役だ」

篠崎が言った。

「噛ませてから飲め」


指に巻きついた体温が生々しかった。

ヘビの頭が僕の親指を噛んだ。

血が出て、舐めた。

その味が甘くて、胸の奥がざわめいた。

口に入れると、骨が歯に当たる音がした。

喉の奥で、動いた。


翌日、声が出なかった。

首の裏に、銀色の筋が浮かんでいた。

保健室で見せると先生は笑って言った。

「日焼けの跡じゃない?」

笑いながら、もう次の書類をめくっていた。


夜、鏡を覗くと、舌の裏に薄い線があった。

それは鱗のように見えた。

息を吐くと、舌がわずかに二つに割れた気がした。

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