第2話 カエル
梅雨が終わっても、空気は乾かなかった。
理科の時間のあと、篠崎たちは校庭の水たまりからカエルを捕まえてきた。
プラスチックの箱の中で、緑の体が跳ねていた。
「鳴かせてから飲めよ」
笑いながら言う声。
その笑いがもう、何かの儀式の掛け声みたいに聞こえた。
掌にのせると、カエルは冷たくて軽かった。
皮膚が透けて、心臓の鼓動が見えた。
その鼓動が僕の手に移る。
僕の心臓が、それと一緒に跳ねた。
口に入れると、足が喉を叩いた。
飲み込むとき、骨の音がした。
胃の奥が熱くなり、耳の奥で水音がした。
保健室で先生が言った。
「また? 本気でやってるの?」
僕は首を振った。
「ストレスね」と言われ、プリントを渡された。
〈最近、つらいことはありますか〉
僕は「いいえ」に丸をつけた。
それが正解だと、思った。
帰り道、舌の奥が動く。
「ゲ」という声が漏れた。
家に帰ると母が眉をしかめて言った。
「やめなさい、気味が悪い」
僕はうなずいた。
そのうなずきのたび、喉の中で水が鳴った。
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