3
母、小豆(しょうず)は豊虫を落ち着かせ鈍く痛む腰をさすりながらリビングに行き戸棚の前に立つ。
立てかけてある写真に向けて口を開こうとして止める。
息子が昔から人間の友達より動物の友達を欲しがっていることを小豆は知っていた。
動物に偏見があるわけではないが人間の友達よりも動物の友達が多いことがあまりいいことと思えないのには理由があった。
豊虫は父を知らない。
父の名前は駿馬(としま)という。
小豆からは小さい頃に死んだと伝えられており家には写真が飾ってあった。
彼女がその写真に手を合わせるのを何度も見た豊虫はなんの疑いをもつこともなく、時々父に手を合わせていた。
しかし、小豆は嘘をついていた。
駿馬とは結婚もしておらず豊虫を身籠った頃にはどこかへ消えていた。
元から自由な気質の彼は動物に愛されていた。そして彼らの暮らしに憧れ感化されていた。
そんな奔放さに惚れていた小豆はそんな勝手なことをされても駿馬をもっと好きになっていた。
しかし、そんな勝手な父だと息子に伝わってしまえばきっと息子は父を軽蔑する。
小豆は愛している駿馬を息子といえど悪く言ってほしくはなかった。
そうして愛ゆえの嘘をつき、息子を騙していた。
その罪悪感は消えないが愛した男のことを愛する息子が悪くいうよりはずっと良かった。
「あの子も、やっぱりあなたの子供よ。」
そう言って小豆は駿馬の映る写真の縁をなぞる。
「私もあなたたちと同じ道を歩けたらな…。」
声に出すつもりはなかったが思わずこぼれてしまう。
「また、私は愛した人を動物たちに奪られちゃうのかな…。」
天井近くの小窓から射す弱々しい月光が母の頬を照らす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます