2

回り疲れた2匹はフラフラと森の中の開けた場所に寝そべる。

仰向けに転がったクマの上に勢いよく少女が飛び込む。


「うっ…。」


「あら、ごめんなさい。勢いよく飛び込みすぎたかしら?まさか…私が重いなんて言うんじゃないでしょうね?」


肩肘を突きながら顔を覗き込み足をパタパタさせた少女にクマは困った顔をする。


「そんな、まさか。君は羽のように軽いよ。よければこのまま麓まで運んであげてもいい。」


それを聞いた少女は顔をパッと明るくさせる。


「ほんと!!ありがとう!あなたはやっぱりいいクマさんだわ!」


勢いよく手を首に巻き付ける少女の背を片手で支えながらこの不思議な出会いにクマはドキドキしていた。


「でも、クマさんって呼びにくいわ。私のワンちゃんと同じなんだもの。」


「お嬢さん、あんたはなかなか勝手なお人だね。とは言っても俺も名前をつけてくれる人なんていなかったから…つけてもらえるならありがたい。」


少女はうーんうーんとクマの上であぐらと腕を組んで考え込んでいる。


「あなた、クマさん以外の呼ばれ方はないの?」


それを考えてくれるんじゃないのかと思いながらも昔人間に呼ばれたことのある名前を思い出す。


「そうだなぁ。小さい頃にヒグマの子供だと言われたことはあったかな。」


それを聞いた少女はパッと顔を明るくさせてクマの顎に指を突き立てる。


「それよ!あなたはひぐっちゃん!んー、でもあなた可愛くないからひぐっさん…の方がいいかな?」


うふふと笑う少女を見ながらクマは名付けれた名前を心の中で反芻する。


ひぐっさん…ひぐっさんか。悪くない。

むしろ響きが気に入った。


「あら?嬉しいのかしら?ひぐっさん。口元がニヤけてるわ。」


「そうだね。お嬢さんのつけてくれた名前気に入ったよ。お礼にきちんとお家に帰してあげるよ。」


少女はピョンとひぐっさんから飛び降りると周囲を見渡す。


「でも、私どこからきたのかもうわからないのよね。蝶がまた連れていってくれたらいいのだけど。」


「大丈夫。俺に任せなさい。君の痕跡を辿るなんて朝飯前さ。」


そう言って鼻を指差しスンスンさせる。


「うふふ。じゃあ、よろしく頼もうかしら。」


そういうと四つん這いになったひぐっさんにピョンと乗り込む。

ひぐっさんは昔祖父が話してくれた金太郎という話を思い出して小さく笑った。

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