第4話 粗忽ナッツ
先輩に渡した手土産のお返しを貰ってしまった。
お返しのお返しだ。
人員不足で倍の仕事を瀕死でこなし、残業した後に退社する時に、更衣室の私のハンガーに下げられていた。
「この間のランチは楽しかったね。私のお気に入りのナッツです。ご主人とどうぞ」との手紙が添えられており、中身を改めると、ナッツのキャラメリゼだった。
お礼は瞬発力が大事なので、すぐに感謝のメッセージを送る。
気分がいいのでスキップして帰りたいところだが、通勤定期が勿体無いので電車で帰る。
休日だった夫に「お返しのお返しを貰ってしまった」と話すと、返す刀で「返してきな」と言われる。
落語のサゲみたいな会話。
コーヒーを淹れている間に先に開封した夫の「うまっ」の声を聞かなかったことにして、早速いただく。優雅な午後。
感想を端的にいうと、「こんなに美味しいナッツがいただける私は、きっと特別な存在なのだろうと思いました」だ。
敢えて一言文句をつけるならば、食べるとなくなるということ。
タバコ2つ分くらいの大きさの直方体のケースに入ったそれが空っぽになるのが惜しくて、チンチロに負けたカイジが金欠を凌ぎ45組と分け合った柿ピーくらいのペースで食べた。
いよいよ、ナッツがなくなってしまうという時、ケースに入っていたロゴをなんとなく検索してみる。
割と近い場所にお店があるらしい。
そうと分かれば話は別だ。
残りのナッツを平らげ、意気揚々と夫に報告した。
「ねぇ、あのナッツ、近所で買えるんだって!今度一緒に買いに行こうよ!」
貰ってきた私よりたくさんのナッツを食べ、コーヒーを飲み干した夫は、返す刀でこう言った。
「よし、じゃあ買ってきて」
翌日、散髪から帰ってきた夫の手には、例のロゴの入った手提げ袋があった。
押し付けられたので中身を改めると、例の特別なナッツと、他にも高級そうなクッキーが入っている。
「俺は健康診断があるから、たくさん食べていいよ」と夫。
こうしてささやかな私は喜びを噛み締めたのだった。ナッツだけに。おあとがよろしいようで。
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