第5話 もう一息

依頼を終えた俺たちは、村の酒場に招かれた。

報酬の一部は宴会代に消え、テーブルには肉と酒が並ぶ。

俺は当然のようにジョッキを掲げた。


「いやあ、楽勝だったな!」


「楽勝ではありませんわ!私も枝で必死に戦ったのですから!」


「振り回していただけにも見えたが」


「気概の問題です!」


彼女は頬を膨らませている。

惜しい顔立ちが、酔いで赤らむと妙に愛嬌が出る。

俺は思わず笑ってしまった。


「な、何がおかしいのですか!」


「いや、意外と可愛いなと思って」


「……っ!」


彼女はジョッキを掴み、ぐいっと飲み干した。

その勢いで胸元が揺れ、周囲の男たちが一斉に視線を向ける。

俺は反射的に睨みつけた。


「おいっ、見るなっ」


「な、なぜあなたが怒るのですか!」


「いや……なんとなく……」


自分でも理由は分からない。ただ、他人に見られるのが妙に癪だった。


宴は続き、彼女は次第に饒舌になった。


「私、ずっと“惜しい”と言われ続けてきましたの。顔も、性格も、何もかも。だから呪いを解いても変わらなかったとき、本当に絶望しました」


「……」


「でも、あなたは“メリットはあった”と笑ってくれた。あれが、救いでした」


俺は言葉に詰まった。

クズな俺の評価が、目の前のこの人を救った?そんなことがあるのか?


「だから、今度は私があなたを救いますわ」


「?」


「あなたは腕利きですが、クズです。惜しい男です。ですが――」


彼女は真っ直ぐに俺を見た。

惜しい顔が、酔いと真剣さで妙に綺麗に見える。


「ですが、私はあなたを“頼れる人”だと評価します」


「……」


胸が熱くなった。

俺は慌ててジョッキを煽り、誤魔化す。

だが酔いが回るほどに、彼女の存在が近くなる。


気づけば、肩が触れていた。

彼女は顔を赤らめ、視線を逸らしている。

心臓の音が、また大きくなる。


「……なあ」


「な、なんですの」


「次の依頼も、一緒に来るか?」


「もちろんですわ!」


即答だった。

俺は笑い、彼女も笑った。


――こうして、俺たちの距離は少しだけ縮まった。


惜しい令嬢と惜しい冒険者。

けれど、惜しい者同士だからこそ、補い合えるのかもしれない。


次の依頼が、俺たちをどこへ連れていくのかは分からない。

だが一つだけ確かなのは――。


俺は、もう彼女を“拾った”とは思っていない。

今はただ、“隣にいる”という事実が、心の底から嬉しかった。

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