第3話 チョロイン

再会は突然だった。

市場の真ん中で、あのクズ冒険者が

リンゴを万引きしようとして店主に怒鳴られていたのだ。


「おい、金を払え!」


「いや、味見だ。俺は腕利きだから信用しろ」


「腕利きと万引きは関係ない!」


なんという正論!

それはともかく、私は思わず声をかけてしまった。


「……またお会いしましたわね」


彼は振り返り、気まずそうに笑った。


「おお、惜し顔令嬢」


「その呼び方はやめなさい!」


私は胸を張った。

以前よりも豊満になった体は、否応なく視線を集める。

だが今の私は、ただ評価されるだけの存在ではない。


「前回は散々、私を“惜しい”だの“メリット”だのと評価しましたわね」


「事実を述べただけだ」


「では今回は、私があなたを評価いたします」


彼は一瞬きょとんとしたが、すぐに肩をすくめた。


「好きにしろ。クズよばわりには慣れている」


私は彼をじろじろと観察した。


まず顔。整っている

……と言えなくもないが、無精ひげと寝癖で台無し。惜しい。


次に体。鍛えられてはいるが

……酒と夜更かしのせいか腹が少し出ている。惜しい。


最後に性格。腕利きなのは確かだが

……クズであることを隠そうともしない。惜しい。


「総合評価――“惜しい男”ですわ」


「おい、あんたと同じカテゴリに入れるな」


「いいえ、あなたも十分に惜しいのです」


彼は頭をかきながら苦笑した。


「まあ、確かに俺は完璧じゃないな」


「完璧どころか、欠点だらけですわ」


「だが、それでも拾ったのは俺だろ」


「……それは認めます」


妙な沈黙が流れた。

市場の喧騒の中で、私たちは互いに

“惜しい”と評し合う奇妙な関係になっていた。


そのとき、悲鳴が上がった。


ぬすっとだ!財布を盗まれた!」


群衆がざわめく中、黒ずくめの男が走り抜ける。

冒険者は即座に動いた。

彼は迷いなく盗人を追うと、あっという間にねじ伏せた。


「な?腕利きってのは、こういうことだ」


彼は涼しい顔で財布を持ち主に返した。


私は思わず拍手していた。


「……評価を訂正しますわ」


「お?」


「惜しい男、から――“惜しいけれど頼れる男”に」


彼はにやりと笑った。


「まあ、おたがい微妙だがメリットもあるってことだな」


「その言い方はやめなさい――」


だが、心のどこかで私は同意していた。

顔も惜しい、性格も惜しい。

けれど、いざというときに動ける人間は、やはり頼もしい。


――こうして、私と彼の関係は少しだけ変わった。

今度は私が彼を拾おうかしら。

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