第2話 知ったような口を叩くな

あの日、私は泥の中に倒れていた。

若い娘が道端で転がっているなど、普通ならあり得ない。


だが呪いというものは容赦なく、私の顔を「惜しい」方向へと歪め、

誰も助けてくれなくなった……と思っていた。


そこへ現れたのが、あの冒険者だった。


「……なんか微妙だな」


私を見下ろして放った、第一声がこれである。

普通、困っている令嬢にかける言葉ではない。

だが彼は平然としていた。

腕利きらしいが、同時にクズだと自称していた。

なるほど、納得である。


「呪いを解けば、美貌が戻るはずです」


必死に訴えた私に、彼は気楽に呪文を唱えた。

光が走り、私は期待した。鏡を見れば、きっと元の美しい顔が――。

だが彼は首を傾げ、こう言った。


「……さほど改善してないな」


胸が締め付けられた。

努力しても報われない人間の気持ちを、私は初めて理解した。

しかし彼は続けて言った。


「二個目の呪いがあるな」


二個目?

そんな話は聞いていない。だが彼は詠唱を始めた。

次の瞬間、ドレスがぱつんと音を立てた。

胸元が、腰回りが、全体的に……重い。いや、豊満になったのだ。


「なっ……!」


私は慌てて布を押さえた。

だが彼は腕を組み、冷静に言い放った。


「これは……メリットがあったな」


メリット?

私の人生が、メリット・デメリットで評価されている。

顔は惜しいまま、体は豊満。

総合点は「まあ良し」?


怒りと羞恥で震えた。

だが同時に、妙な安堵もあった。

少なくとも、誰にも見向きされなかった私を、

彼は「拾った」のだ……クズなりに。


実家に戻ると、家族は大喜びした。


「顔はまあ……うん、でも健康そうになったな!」

「ドレスが全部着られなくなったけど、まあ仕立て直せばいい!」


家族の評価も「まあ良し」で一致した。


私は窓辺から彼を見送った。

惜しい顔に、豊満な体。自分でも笑ってしまう組み合わせだ。

だが、あのクズ冒険者は迷わず「メリット」と言った。


――もしかすると、私の物語はここから始まるのかもしれない。

顔が惜しくても、体が豊満でも、拾われた時点で私は「救われた」のだ。


だが、次に会ったとき、彼はまた無遠慮に評価するだろう。

――私は胸を張って言い返すつもりだ。


「メリットかどうかは私が決めます。私の評価は私がつけます!」


そう心に決め、私は新しいドレスを頼んだ。


――惜しい顔でも、豊満な体でも、

人生という舞台に立つ準備が整ったのだから。

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