拾った令嬢の呪いを解いても、さほど改善しなかった場合、扱いに困る

茶電子素

第1話 もう一息

俺は腕利きだ。

だが同時にクズでもある。


依頼を選ぶ基準は

「楽そうか」「儲かりそうか」「面白そうか」だけ。

だから、道端で泥だらけの令嬢を見つけたときも、

助ける理由は純粋に「暇つぶし」だった。


「お願いです、呪いを……」


泣きそうな顔で縋られた。

いや、泣きそうというより、そもそも顔が微妙に歪んでいる。

鼻と口のバランスが悪いのか、

目が妙に寄って見えるのか。とにかく「惜しい」。


俺は解呪の腕には自信がある。

金を積まれれば王侯貴族の呪いだって解いてきた。

だが今回はタダ働きだ。気楽に詠唱を済ませる。


光が弾け、彼女の顔を包む。


……結果。


「……あんまり変わらんな」


「えっ」


「いや、多少は整った気もするが……全体的に惜しいままだ」


正直に言った。

俺はクズだから、慰めの言葉をかける習慣がない。


彼女は肩を落とした。

だが俺は魔力の残滓を感じ取る。

顔の呪いは解けたが、別の呪いが体に絡みついている。


「二個目があるな」


「えっ、まだあるんですか」


「ある。で、解くか?」


「……お願いします」


俺は再び詠唱した。


次の瞬間、彼女のドレスがぱつんと音を立てた。

胸元が、腰回りが、全体的に……豊満になった。


「なっ……!」


彼女は慌てて布を押さえる。だが隠しきれない。

俺は腕を組み、冷静に評価した。


「これは……メリットがあったな」


顔は惜しいままだが、体つきは劇的に改善。

市場で売れば高値がつく果実のような張り。いや、売る気はないが。


「な、何を勝手に評価しているんですか!」


「いや、事実を述べただけだ」


「失礼極まりない!」


怒っているのか照れているのか分からない表情。

惜しい顔立ちが、逆に妙な迫力を生んでいる。


その後、彼女を実家に送り届けると、家族は大喜びした。


「顔はまあ……うん、でも健康そうになったな!」


「ドレスが全部着られなくなったけど、まあ仕立て直せばいい!」


家族の評価も「まあ良し」で一致した。


俺は報酬を受け取り、屋敷を後にした。


振り返ると、彼女が窓からこちらを見ていた。

惜しい顔に、豊満な体。妙に忘れがたいシルエット。


――結論。呪いを解いても顔が改善しない場合、扱いに困る。

だが二個目で体が豊満になったなら、それはそれでメリットがある。


俺はクズだ。

だからこそ、そういう結論に迷いはない。

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