ストーカーヤンデレ同級生が義妹になったので逃げ場を失った。

夜兎ましろ

第1話 ストーカーが義妹になった

 学校からの帰り道。

 ごく普通の高校二年生である俺――白石春斗しらいしはるとは、背後からの視線を感じていた。

 それと共に聞こえてくる俺と同じ速度で歩く足音。


「またか……」


 足を止め、チラリと背後を振りむくと、その視線の正体は電柱の後ろに隠れた。

 ため息をついて、再び歩き出す。

 すると、同じように電柱に隠れる人物も歩き出す。


 何もしてこないから余計に怖い。

 毎日のように俺の跡をつけてくるんだよな。こうなったのは俺が二年になってからか。


 今は十月だから、約半年ほど前からだな。


 危険な目に合わせられたわけでもないし、放っておいているのだがこのままで良いのだろうか。

 良くないんだろうけど、何かする気も起きない。


 友達にも相談したことがあり、「早く手を打たないと手遅れになるぞ」と言われたんだけど、別に問題ないだろうと何もしないまま今に至る。

 俺の性格的にただ面倒くさいだけなんだけど。


「カッコいい……♡」


 背後から声が聞こえてきた。

 確実に俺のことを言っている。

 再び背後を振り向く。


「あっ……!」


 やはりまた隠れた。

 だが、今回はあまり隠れられるようなものがなかったようで、かなり細い木の後ろに隠れた。木と言うかほぼ棒みたいな感じ。

 そのせいで頭隠して尻隠さずどころか、ほぼ全身が隠れ切れていない。


 腰まで伸びた綺麗な黒髪。

 少し小柄な体格。

 モデルのように整った顔。


 クラスメイトの黒咲澪くろさきみおだ。


 こんなストーカー行為をしていなければ学校で一番モテていただろう。

 でも、ストーカーなんだよなぁ。

 何故か標的は普通の男子高校生の俺。


「着いたか……はぁ……」


 家に到着し、背後を確認するが、当たり前のように家までついて来ている。

 普通に家の場所もバレているけど、何もされてないし、問題ないだろう。


「ただいまー」


 家の中に入り、自室にカバンを置いて、着替えた。

 部屋のカーテンの隙間からそーっと外を覗く。


「……っ!」


 目が合った。

 慌てて窓から距離をとった。

 家の中までついてきたりはしないけど、こうして長時間俺の部屋を見ていることがある。ていうか、なんで俺の部屋の位置までバレてるんだよ。


 自室がずっと見られていると思ったら怖くなったので、俺は父さんのいるリビングへと移動した。


「お、どうした? 随分と疲れた顔をしてるぞ?」


 ソファでくつろいでいる父さんは俺の顔を見てそう言ってきた。

 そりゃ、疲れた顔にもなるさ。

 ほぼ毎日ストーキングされてるんだから。


「あ、そうだ。お前に言っておくことがある」

「ん? 何?」


 父さんは突然真剣な表情になった。

 普段は冗談を言ってきたり愉快な父さんなのだが、普段からは考えられないほどに真面目な表情だ。

 よほど重大な話なのかもしれないな。


「父さんな、結婚しようと思うんだ」


 父さんの口から出たのは驚きの言葉だった。

 結婚……?

 そっか、やっぱり父さんも寂しかったんだな。


 俺は自分の母親を知らない。

 俺が物心つく前に父さんと俺を置いて、蒸発してしまったから。

 それでも、父さんは男手一つで俺をここまで育ててくれた。そんな父さんが結婚をする相手を見つけたのは意外だったが、嬉しい。


「父さんが結婚かぁ。俺も嬉しいよ」

「本当か!?」


 俺の肩をガンガン揺らしながら嬉しそうにニッコリと笑った。

 父さんの結婚に対して反対するとでも思っていたのかな。反対するわけないじゃん。


「本当に決まってるでしょ」

「よかったぁ~」

「反対すると思ってたの?」

「正直言うと、少しだけ思ってた」

「反対するわけないでしょ。父さんが決めた人なら俺は大歓迎だよ」

「あははっ、ありがとな春斗! お前が俺の息子で本当に良かったよ」

大袈裟おおげさだなぁ」


 父さんは本当に嬉しそうに笑っている。

 いつも明るい父さんだけど、今日はいつも以上に明るい。

 こんな父さんを見ることが出来て、俺も息子として嬉しい。


 でも、そうか。

 父さんが結婚するってことは俺に母親ができるのか。

 どんな人だろう。


 優しい人だといいな。


「あ、それと父さんの結婚する人な、お前と同じ歳の娘さんがいるんだよ。誕生日は向こうの方が遅いらしいから春斗がお兄ちゃんになるな」

「へぇ、そうなんだ」

「驚かないのか?」

「いや、驚いてるけど、父さんが結婚するって話で驚き疲れちゃった」

「あははっ、春斗らしいな!」


 俺と同じ歳の娘かぁ。

 義妹ができるってことか。

 仲良くやっていけるだろうか。

 

 少し不安だけど、きっと何とかなるさ。


「父さん結婚するってことはその人たちとも一緒に住むんだよね?」

「ああ、そうなるな」


 俺たちの家は二人住みにしてはかなりの広さだから、一緒に暮らすとなると向こうがこっちの家に引っ越してくることになるだろうな。


「いつから?」

「向こうは来週中にも一緒に住みたいと言っている。春斗が良いなら来週からってことになるけど……」

「全然いいよ」

「そうか! それじゃ、一緒に住む前に一度会っておくか!」

「俺もその方が良い」

「よし、それなら日曜日は空けておいてくれ」

「分かった」


 こうして俺は日曜日に新しく母になる人とその娘――つまり俺の義妹になる人と会うことになった。


 ♢


 時間はあっという間に過ぎ、日曜日になった。

 どんな服装が良いのか分からなかったので、とりあえず学校の制服を着た。

 日曜日に制服……違和感しかない。


「お、来たみたいだ」


 インターホンが鳴ったので、俺と父さんは玄関に迎えに行った。

 ガチャリ、とドアを開けると、そこにいた人物に目を疑った。


 そこにいたのは優しい雰囲気をした女性と、その隣に俺のことをほぼ毎日ストーキングしているクラスメイトの黒咲澪がいた。

 黒咲澪は俺のことを見ても、驚いている様子はない。


「え、なんで……」

「ふふっ、これからはずーっと一緒だね♡」

「は……ははは……」


 こうして、どういうわけかストーカーが義妹になることになった。



――――――――――――――――――――――――――

【あとがき】

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